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「......はい、じゃあ黒井君。皆に挨拶して」
「東京から来ました、黒井真守です。短い間だとは思いますが、よろしくお願いします」
言い慣れた挨拶をしてみるも、クラスメイトは何も言わない。俺は困った末に愛想笑いをし、気まずさをごまかした。
「んー、と。じゃあ黒井君の席は...あぁ、そこの窓際ね」
そう言って指さされた先は、窓際の一番後ろの席だった。眺めが良くて助かるが、教科によっては黒板の字が見にくそうだ......。
「黒井君の隣は今日休み...いや、しばらく休みだけど気にしないでね」
「は、はぁ......分かりました」
しばらく休み、とは......?
担任の言葉の意味が気になったが、それよりクラスメイトの視線が痛い。俺はクラスメイトの視線から逃げるようにして、言われた席に向かった。
ホームルームが終わり荷物を片付けていると、横から「あのぅ...」と声をかけられた。驚いて声の方を見ると、そばかすが目立つ丸顔の男子と、リスのような出っ歯が特徴の眼鏡男子が立っていた。
「は、初めまして...僕は石田。こっちは、僕の友達の下田君」
「あ、あの...どうも......」
丸顔...石田の紹介で、眼鏡男子...下田が頭を下げた。2人は何か話したい事があるようで、恥ずかしそうにモジモジと指先を動かしている。
「えっと、あの...どうしたの?」
「う、うん。あのさ、黒井君って東京から来たんだよね?」
話のきっかけを作ると、石田が嬉しそうに目を輝かせた。俺が「そうだよ?」と答えると、2人は嬉しそうに笑った。
「すごい!東京って都会だよね!?やっぱり芸能人とか普通に歩いてたりするの!?」
「え?いや、俺は会った事ないけど...街中にいけば普通にいるらしいよ?」
「やっぱそうなんだ!凄いね!!」
予想外の質問に驚き、捻りのない答えを返したが、石田と下田は嬉しそうに目を輝かせた。
「僕たち東京行った事ないから、東京の話とかたくさん聞きたいんだ!これからも話しかけていい?」
「え?う、うん...勿論いい、けど...」
「やったぁ!ありがとぉ!!」
クラスメイトに話しかけるのに、許可なんかいらないだろうに......。違和感を感じて周りを見ると、他のクラスメイトたちは変な目でこちらを見ていた。騒ぐ2人を、ではない。引っ越してきた俺を、だ。
(田舎特有なんだよなぁ、これ...)
他所者を見る冷たい目と、他所者に対して放つ冷たい空気......。何度も経験しているとはいえ、やはり嫌なものである。
(まぁ、いいや。どうせそんな長くいないし...)
俺は周りから感じる冷たい空気を無視して、喜ぶ2人に視線を戻した。
「黒井君も、何か気になる事があったら遠慮なく聞いてね!」
下田のその言葉に、俺の耳が揺れた。ならば担任が言っていた、隣の席の主について聞こうか。
「じゃ、じゃあさ。俺の隣の席って...どんな子が座ってるの?」
「え?あぁ、うん。その席はね......」
石田が口を開くと、それに合わせてチャイムが鳴った。
「わっ!やばっ!ごめん!その話、また後でね!」
「えっ?あ、あぁ...うん」
やばい。すっっごく気になる。
俺は胸に残ったモヤモヤをそのままにして、授業の準備を始めた。
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