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菓子を摘まみつつ、最初のページから漫画を読む。
庶民的な醤油ラーメンの中に浮かぶナルトを見て、事件のトリックに気づいた探偵・面間鳴斗。そして探偵の前に現れた、東南アジア系の謎の美女・生波留マキ──その独創的なストーリー展開に、手に汗を握っていれば、依彦がボソボソ呟いた。
「…食べたいモノ、か」
「んー? どうした、腹減ったか?」
「…まぁ、食べたいモノがないワケじゃないけど」
「あー? 何だよ、ラーメンかー? 来々軒なら付き合うぞ」
来々軒の名物・ピリ辛な肉味噌と、特製炙りチャーシューがのった辛味噌ラーメンは、依彦の好物だ。
「来々軒行くなら、早く言えよー」
漫画に集中するあまり、おざなりな相槌を打ちながら、キノコの森をポイポイと口に放り込む。甘酸っぱいいちごフレーバーを堪能していると、ずっと机に向かって勉強していた幼馴染みが、椅子ごとクルリと回って振り返ったのが、気配でわかった。
「───」
何やらボソボソ聞こえる。声にまで覇気がないとか、どんだけやる気がないんだ、コイツは。
「……ん? どうしたヨリ?」
視線を感じて、漫画から顔を上げて名を呼べば、ヨリはいきなり、オレにこう言った。
「──なぁ、お前、オレとヤってみねぇ?」
「………へ??」
ポロリと、口の端からかじりかけの菓子が落ちた。
青天の霹靂。
まさに青空から突然、稲妻が落ちてきたような衝撃に、頭が真っ白になった。
* * *
それは、何てことのない、平和な日曜の午後──の、はずだった。
少なくても、オレに取っては。
【scene:00 End】
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