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璃桜が始めに向かったお店は、髪結い紐のお店だった。
その店先には、簪なども並んでいて。
「綺麗……」
「お兄さん、お目が高いねぇ」
店主にそう話しかけられて、はっとした表情になる。
そう、璃桜は男装をしている。ここに戻ってからずっと。
「これも今人気の品だよ。好いている人にでも贈ってみないかい」
少しだけ元気がなくなったのは、気のせいだろうか。
「………」
いや、違う。明らかに、テンションが下がっている。
璃桜も、女子だし、簪などで着飾りたい日もあるんだろうか。
「今日は何をお探しで」
「……髪結い紐がほしくて」
店主に案内されて、紐を見始めたその横顔が、少しだけしょんぼりしていたから。
璃桜が違う方向へ顔を向けている最中に、簪を見た。
透き通るような浅葱の硝子に、桜貝のような模様が入っている簪を手に取る。
璃桜の名前に、ぴったり。そう思って、こっそり購入した。
今はまだ、普段使いできなくても、いつかこれを付けられるような、そんな環境にしてやろうと、そう思って。
「璃桜」
「………」
店の店頭で、髪結い紐を見ている璃桜に声をかける。だけど璃桜は、声をかけられたことにすら気づかないほど選ぶことに熱中していた。
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