泡沫の願い

6/19
前へ
/19ページ
次へ
「誰にあげるの?」 「……っ! びっくりしたぁ」 突然の俺の声に、驚いて肩を揺らす璃桜。 それほどまでに、真剣に選んでいる。その紐が贈られる相手が、酷く、羨ましくなった。 「………っ、秘密」 少しだけ、頬が染まる。恋の、色。 璃桜は、気づいているんだろうか。 「ふーん」 面白くない。てゆーか、隠せてない。 璃桜がそこまで真剣になる相手なんて、一人しかいない。 「うーん、そうちゃん、どっちがいい?」 そう言って差し出された、竜胆色と紺碧色。 「なんで、俺に訊くの」 ああ、つまんない嫉妬。 「そうちゃんなら、どっち選ぶかなぁ、って」 「………俺だったら、紺碧」 「ありがと!」 そう言って、璃桜は会計をするために店の奥へ入っていく。 「はは」 乾いた笑いが喉を掠める。かさり、懐に仕舞った簪が音を立てる。 こんなものを贈ろうと、璃桜を幸せにする力は、あの人には勝てない。 それが、悔しくて。 今でも届かないのに、病気になるなんて言われたら、もう絶対に敵わなくて。 それでも、キミの笑顔を護るために足掻こうと、キミに嘘を吐き続ける。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加