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「……そうちゃん?」
「何?」
「……帰ろっか」
璃桜の声に我に返れば、日が傾き始めていた。帰り道は人気がなく、長くなった影は二人分しかなかった。
「おいしかった?」
「うん」
「よかったぁ」
曖昧に頷いた俺の考えていることなどお構いなしに、ほっとした表情で言葉を零す。
「ここ、こないだ来た時お饅頭食べたの!」
「え?」
如何いうことだ?
初めて来たんじゃないのか?
怪訝そうな顔になってしまったのだろう、途端に璃桜が焦ったような顔になる。
「あ、いや……その」
「何、言って」
ぼそりとそう言えば、観念したように璃桜は呟いた。
「そうちゃんが、喜ぶかなぁって思って」
「………え」
「こないだ、歳三が、そうちゃんも行ったことない甘味処でお饅頭たべてやろうぜって、来たの。それが思ったより美味しかったから、そうちゃんにも来てほしいなぁ、って思って」
悪戯がばれた子どものような表情で、璃桜は告白する。
その純粋な瞳に、疚しさが込み上げる。
璃桜は、俺を喜ばせようとしてくれてた。
なのに、自分は。
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