泡沫の願い

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誰かの空咳で目が醒めた。 ゆるゆると瞼を上げれば、朝焼けの橙色が目に染みる。 「こほっ」 再度咳が零れて、誤魔化すように手の甲で唇をきつく抑えた。 元気なんだ。ただの風邪なんだ。 自分の身体に、そう言い聞かせる。 堪えていれば、いつか、この咳とともに、自身を蝕むであろう病の影も、無くなってくれる気がして。 身体に不調を感じ始めたのは、いつだったろう。 「……?」 息を吸い込むと、胸のあたりに違和感があることに気が付いた。嫌な想像が脳裏を過った。なかったことにしようと、頭をぶんぶんと振る。 気のせい、気のせい。 そう言い聞かせながら、部屋に戻る。 辿り着いたときにはもう違和感は消えていた。 そんなことを繰り返して、今日も俺は、自分に嘘を吐くんだ。
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