新たな旅へ

1/12
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

新たな旅へ

「はふーーー」 窓辺で肘を付き、ぼんやりと外を見ながら溜息を吐いたのはカッパーポン村の名誉村民・リカルドだった。 娘同様に可愛がっていたカパ子を追ってこの村を訪れ、この村に骨を埋める覚悟だったのだが、最近はいささかそんな気持ちも揺らいでいた。 孫のように感じていたカパ子の娘には、抱き癖が付くからといって抱く事さえ許してはもらえなかった。 村に初めて人間が来たことで話題にもなったが、それもほんの一時のこと。 今では忘れ去られた珍獣同様に、リカルドに振り向いてくれる者もいない。 カパ子夫妻は、リカルドに小さな家を与え、日々の生活に困らないようにはしてくれたが、人間は楽しみがなくては生きてはいけない生物だ。 メル友を探しても、写メを送るとその途端、返信はぱったりとなくなった。 (わし…そんなに写真映りが悪いんかのう…?) 鏡を見て、光の入り具合を考えて、最高のコンディションで映した自信満々の詐欺写でさえも、うまくはいかなかった… (つまらんのう……) リカルドは、また大きな溜息を吐く。 「はふーーーー」 (さて…そろそろ、あそこへ行くとするか……) リカルドは、ゆっくりと立ちあがると、部屋を後にした。 毎日、昼を過ぎると、リカルドは近くの図書館へ通うのが常だった。 特に興味のあるものはなかったが、元々、勉強好きのリカルドは、この村に来てからカッパ語も完璧にマスターした。 「リカルドさん、また読書ですか? あなたは本当に勉強熱心なお方じゃ。」 「おお、カパリックさん… いやいや、わしには勉強しかすることがないだけですよ…寂しいもんですな…」 「そんなことはありませんぞ。 教養はいつか役に立つものです。」 「そうでしょうかな……」 「どうですとも。 では、私は調べものがありますのでこれで……」 カパリックは本を抱え忙しそうに図書館を出て行った。 リカルドにカッパ語を教えてくれたのもこのカパリックだった。 (ええのぅ…カパリックさんは仕事があって…) リカルドも、あまりの暇さに仕事がしたいとカパディに申し出たが、カッパ語が堪能ではないことを理由に断られた。 そのため、カッパ語をマスターしたのだが、今は事務系の仕事に空きがないからということで保留にされた。 かといって、力仕事には昔から自信がない。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!