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新たな旅へ
「はふーーー」
窓辺で肘を付き、ぼんやりと外を見ながら溜息を吐いたのはカッパーポン村の名誉村民・リカルドだった。
娘同様に可愛がっていたカパ子を追ってこの村を訪れ、この村に骨を埋める覚悟だったのだが、最近はいささかそんな気持ちも揺らいでいた。
孫のように感じていたカパ子の娘には、抱き癖が付くからといって抱く事さえ許してはもらえなかった。
村に初めて人間が来たことで話題にもなったが、それもほんの一時のこと。
今では忘れ去られた珍獣同様に、リカルドに振り向いてくれる者もいない。
カパ子夫妻は、リカルドに小さな家を与え、日々の生活に困らないようにはしてくれたが、人間は楽しみがなくては生きてはいけない生物だ。
メル友を探しても、写メを送るとその途端、返信はぱったりとなくなった。
(わし…そんなに写真映りが悪いんかのう…?)
鏡を見て、光の入り具合を考えて、最高のコンディションで映した自信満々の詐欺写でさえも、うまくはいかなかった…
(つまらんのう……)
リカルドは、また大きな溜息を吐く。
「はふーーーー」
(さて…そろそろ、あそこへ行くとするか……)
リカルドは、ゆっくりと立ちあがると、部屋を後にした。
毎日、昼を過ぎると、リカルドは近くの図書館へ通うのが常だった。
特に興味のあるものはなかったが、元々、勉強好きのリカルドは、この村に来てからカッパ語も完璧にマスターした。
「リカルドさん、また読書ですか?
あなたは本当に勉強熱心なお方じゃ。」
「おお、カパリックさん…
いやいや、わしには勉強しかすることがないだけですよ…寂しいもんですな…」
「そんなことはありませんぞ。
教養はいつか役に立つものです。」
「そうでしょうかな……」
「どうですとも。
では、私は調べものがありますのでこれで……」
カパリックは本を抱え忙しそうに図書館を出て行った。
リカルドにカッパ語を教えてくれたのもこのカパリックだった。
(ええのぅ…カパリックさんは仕事があって…)
リカルドも、あまりの暇さに仕事がしたいとカパディに申し出たが、カッパ語が堪能ではないことを理由に断られた。
そのため、カッパ語をマスターしたのだが、今は事務系の仕事に空きがないからということで保留にされた。
かといって、力仕事には昔から自信がない。
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