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「由真になんて言おう……」
由真は中学のころからの付き合いで、今も同じ会社に勤めている大親友。浩一は由真の彼氏の友達で、よくダブルデートをしていた。
だが、もう四人が集まることはないだろう。由真は彼氏と幸せだが、自分は一人になってしまっている。
突然、視界が暗くなった。
それは気持ちのことではない、現実の話だ。気づいたときには遅かった。
大型トラックがすぐ横を通り、はね飛ばした水が思いっきり体に降り注いでいた。
トラックはそれに気づいたのか、気づかなかったのか、そのまま通り過ぎていってしまう。
「あはは……」
お気に入りの白いコートがびしょ濡れだ。久しぶりのデートのために時間かけてセットした髪も台無し。
当初のずぶ濡れになりたい願望が達成されてしまった。
「……いーじゃん。あたしらしい」
誰に見せるわけでもないのだ。もはやなんだって構わない。
「あっ」
愛良は来た道を引き返していた。
みすぼらしい姿といえば、そんな女性をちょっと前に目にしているではないか。
彼女はまだ橋に立っていた。傘一つを持ち、変わらず川を見つめている。
「こんな日に自殺なんかされたら、思い出しちゃうじゃない」
勘違いの可能性もあるが、普通じゃないのはよく分かる。間違ってたら間違ってたでいい。これは自分のため、自己満足……。
愛良は女性に駆け寄る。
「アイキャンフライ……」
ぼそっと彼女がつぶやした。
聞き間違いかと思ったが、そんな簡単な英語、聞き間違えるはずがない。
愛良はとっさに飛びついた。
「きゃっ!?」
欄干から女性を強引に引き剥がし、そのまま二人とも倒れ込んでしまう。
「何やってんのよ!」
「え……」
突然のことに、女性は呆然としている。
「飛び降り自殺なんて迷惑よ! 周りの人のこと考えたことあるの!?」
「え? え……?」
「こっから飛ぼうとしてたんでしょ?」
「…………。は、はい……」
女性は戸惑いながらも、愛良の問いに答えた。
「どうしてこんなことを?」
「あ、あの……」
女性はもじもじしながら言った。
「空を飛べるんじゃないかって」
「へ?」
「傘を広げて飛び降りたら、ふわーっと空を飛べるんじゃないかなーって」
「馬鹿じゃないの!?」
思わず叫んでいた。社会人になってから、こんな大声で叫んだことはない。
「そういう話あるじゃないですか?」
「メアリー・ポピンズ? ただの物語でしょ……」
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