1話「空も飛べるはず」

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「由真になんて言おう……」  由真は中学のころからの付き合いで、今も同じ会社に勤めている大親友。浩一は由真の彼氏の友達で、よくダブルデートをしていた。  だが、もう四人が集まることはないだろう。由真は彼氏と幸せだが、自分は一人になってしまっている。  突然、視界が暗くなった。  それは気持ちのことではない、現実の話だ。気づいたときには遅かった。  大型トラックがすぐ横を通り、はね飛ばした水が思いっきり体に降り注いでいた。  トラックはそれに気づいたのか、気づかなかったのか、そのまま通り過ぎていってしまう。 「あはは……」  お気に入りの白いコートがびしょ濡れだ。久しぶりのデートのために時間かけてセットした髪も台無し。  当初のずぶ濡れになりたい願望が達成されてしまった。 「……いーじゃん。あたしらしい」  誰に見せるわけでもないのだ。もはやなんだって構わない。 「あっ」  愛良は来た道を引き返していた。  みすぼらしい姿といえば、そんな女性をちょっと前に目にしているではないか。  彼女はまだ橋に立っていた。傘一つを持ち、変わらず川を見つめている。 「こんな日に自殺なんかされたら、思い出しちゃうじゃない」  勘違いの可能性もあるが、普通じゃないのはよく分かる。間違ってたら間違ってたでいい。これは自分のため、自己満足……。  愛良は女性に駆け寄る。 「アイキャンフライ……」  ぼそっと彼女がつぶやした。  聞き間違いかと思ったが、そんな簡単な英語、聞き間違えるはずがない。  愛良はとっさに飛びついた。 「きゃっ!?」  欄干から女性を強引に引き剥がし、そのまま二人とも倒れ込んでしまう。 「何やってんのよ!」 「え……」  突然のことに、女性は呆然としている。 「飛び降り自殺なんて迷惑よ! 周りの人のこと考えたことあるの!?」 「え? え……?」 「こっから飛ぼうとしてたんでしょ?」 「…………。は、はい……」  女性は戸惑いながらも、愛良の問いに答えた。 「どうしてこんなことを?」 「あ、あの……」  女性はもじもじしながら言った。 「空を飛べるんじゃないかって」 「へ?」 「傘を広げて飛び降りたら、ふわーっと空を飛べるんじゃないかなーって」 「馬鹿じゃないの!?」  思わず叫んでいた。社会人になってから、こんな大声で叫んだことはない。 「そういう話あるじゃないですか?」 「メアリー・ポピンズ? ただの物語でしょ……」
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