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2話「倒れても這い上がって」
「先にシャワー使って」
愛良は橋から飛び降りようとしていた女性を自宅まで連れてきたが、いざ家につくと面倒なことをしてしまったなと、少し後悔してしまう。
雨に塗られたコートを脱ぎ捨てると、だいぶ泥はねしていて、クリーニングは必須だ。これは浩一とのデートで買ったお気に入りで、デートのときにしか着ない。
大きなため息が出た。
「何やってんだろ、あたし……」
人に構っている場合ではないのだ。
「死にたいのはこっちのほうだよ……」
今日あったことがすべて夢ならいいのに。現実なら、シャワーで汚れとともに洗い流してしまいたい。もやもやした気持ちを一度リセットしたいのに、風呂場には知らない女性がいる。
家には、浩一との思い出の品がいっぱいある。彼女が出てくるまでの時間、一人で現実に向き合わなければいけないのもつらい。
思い切りのいい人であれば、がっとつかんでゴミ袋に入れてしまうのだろう。しかし、そんなことできない。一つ一つ大切な思い出あるし、物に罪はないのだ。
拾ってきた身元不明の女性の扱いも面倒だ。シャワー貸して、はいさようなら、とはいかない。こうなってしまったら、どうして死のうとしていたのか事情も聞いてあげないとダメだろう。
「冷静すぎるよな……」
女性のことだけでなく、物のことまで考えている自分を笑う。
髪をタオルで拭いていると、彼女はカラスの行水で、すぐにお風呂から出てきた。
「シャワー、ありがとうございます」
タオルを頭に、愛良の貸した部屋着を着て出てきた。
体はほっそりとしていて、子供のようだった。
「じゃ、ご飯食べにいこっか」
「え? シャワーは?」
「着替えたから大丈夫。それより、お腹すいてるでしょ?」
「はい……」
彼女としては、愛良に気を遣ってすぐシャワーを出たのだが、逆に気を遣われてしまう。
「あたしは佐伯愛良(さえきあいら)。あなたは?」
「あ。不破未梨亞(ふわみりあ)です」
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