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今日は外で食べる予定だったから、家には何も食材がなかった。未梨亞はだいぶ空腹だったようなので、近くにあるファミレスへ行くことにした。
雨はすでにやんでいる。
「すみません、いただいちゃって……」
「いいのいいの。好きなだけ食べて」
ファミレスに入っても、彼女は遠慮して何も注文しようとしなかった。その理由はお金を持っていなかったからだ。
愛良も一応社会人。一食おごるぐらいたいしたことないし、無一文の人を放っておけるはずもなかった。
相当お腹がすいていたのか、注文したハンバーグセットをあっという間に平らげてしまう。
「あたしの分も食べていいよ」
ペペロンチーノの皿を未梨亞のほうに押す。
「え、いいんですか?」
遠慮しながらも、その目は輝いていた。
「どうぞどうぞ」
まるで子供の相手をしているようだった。こんなことで喜んでもらえるなら、いくらでも譲りたいと思ってしまう。
「おいしそうに食べるんだね」
浩一とのデートでは食べる前に別れ話になったため、何も食べていなかった。お腹はすいているが、今は何かを食べる気分ではなかった。
それより、未梨亞がおいしそうにむしゃぶりついている姿は、なんだか見ていて気持ちよく、心が落ち着いた。
「ふわぁー、お腹いっぱいです。あ、ギャグじゃないですよ」
「え?」
「あ……。名字が不破でして……」
名前は聞いていたが、これだけの付き合いと思い、ちゃんと覚えていなかったのだ。
ギャグとしては全然面白くなかったが、言い方が妙に可愛らしかったので笑ってしまう。
「ふふ、喜んでもらえて何より」
「本当にありがとうございました」
心から礼なのだろう、未梨亞は頭をぺこりと下げる。
髪が皿に触れそうで愛良は不安になる。
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