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「それで……」
ご飯も食べ終わったこともあり、未梨亞の顔色はだいぶ良くなっている。愛良はついに核心に触れることにした。
「どうして死のうとしていたの?」
今は自分のことで精一杯だから、できればこんなこと聞きたくないが、助けてしまった責任もある。彼女には、人に相談したいことがいっぱいあるはずだ。
子供のような未梨亞を見ていると、少しでも彼女の気を楽にしてあげたいと思えた。
「仕事をクビになったからです……」
「クビ?」
「はい……」
それは死にたくなる気持ちも分かる。自分も急に仕事がなくなったら、どうやって生きていけばいいか分からない。彼氏がいるなら彼氏に頼ることもできるが、今はそれもできない。
彼女にも頼れる人はいないのだろうか。
「仕事は何をしていたの?」
「声優です」
「西友? バイト?」
「バイトみたいなものですが……声のお仕事です」
「ああ! 声優か!」
もちろん声優という職業は知っていたが、実際声優を職業としている人には会ったことがなく、すぐには思いつかなかった。
「声優かぁ。声のお仕事でしょ。すごいじゃん!」
「まあ……クビになったんですけどね……」
「あ、ごめん……」
「いえ、大丈夫です。私がダメだっただけですから」
珍しい職業なのでいろいろ聞いてみたいが、クビになって死のうとしている人には聞きづらかった。
「そっかあ。クビかぁ……。声優になるのって、大変なんでしょ?」
「はい……。専門学校通ったり、養成所いくつか行ったりして……5、6年勉強しました」
「5、6年? そんなに通わないといけないの? 学費大変じゃない?」
「専門学校いってすぐ声優になる人もいますけど、一部のすごい人です。そうでない人は、事務所に付属している養成所に通って勉強するんです。そこで認められると、事務所に入れてくれる、って形ですね。お金も大変です……。みんなバイトしながら通ってました」
「年数的には大学、大学院って感じかあ」
「たいした学歴にならないのが、ちょっと悲しいところです……」
未梨亞は目を潤ませながら言う。
声優は若者の憧れの職業だ。ユーチューバー、芸能人、サッカー選手のように、普通の職業とはステージがまるで違うところに夢がある。
声優は専門学校や養成所などに通って技術を学び、声優事務所に所属することで声優になれる。それは俳優や芸能人と同じ狭き門、誰でもなれる職業ではない。
普通に大学を出て会社員をやっている愛良からすると、別次元の話のようだった。未梨亞もその門をくぐって声優になったのだろう。けれど、成果は出せずクビになってしまった。
(そんなリスクのある仕事できないな……)
愛良の素直な感想がそれだった。
なるのが大変な職業であれば、医者や弁護士のようにリターンが大きいほうがいい。
声優もアイドルや人気声優になればリターンも大きいだろうが、いつまでも人気があるとは限らないし、未梨亞のようにクビになることもあるようだ。
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