16人が本棚に入れています
本棚に追加
/60ページ
Oak (ナラ/楢)
森の大きな樹の後ろには、
すごくきれいな沈黙が隠れている。
みどりいろの微笑が隠れている。
音のない音楽が隠れている。
ことばのない物語が隠れている。
きみはもう子どもではない。
しかし、大きな樹の後ろには、
いまでも子どものきみが隠れている。
長田弘「森のなかの出来事」より
上記の詩は、
『人はかつて樹だった』
ISBN:978-4-622-07229-4
という、長田弘の詩集におさめられています。
この詩集の表紙に使われているのは、ドイツの画家、カスパー・ダーヴィト・フリードリヒの「孤独な木(朝の田園風景)」の絵。
山を背景に一本のオークが画面中央に立ち、木の根元の前には水辺が広がっている。羊飼いは木に凭れかかり、羊達は安らかに草を食む。
200年前に描かれた風景画です。
フリードリヒの絵画には、北方系の暗さが漂います。
私はその暗さが好きで、拙作『雨ざんざん』の作中に、フリードリヒの画集を出したり、登場人物のドイツ人は、フリードリヒが長く居住・活躍したドレスデンの出身という設定にしました。(自分が好きなものを物語に織り込む…自己満足ですが、楽しいです。)
日本でも廃墟人気で、国内外の廃墟系写真集が相次いで出版された時期がありましたが、フリードリヒが描く「森の僧院」や「氷の海」に魅かれるのは、その感覚に近いかもしれません。
最初のコメントを投稿しよう!