Oak (ナラ/楢)

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Oak (ナラ/楢)

森の大きな樹の後ろには、 すごくきれいな沈黙が隠れている。 みどりいろの微笑が隠れている。 音のない音楽が隠れている。 ことばのない物語が隠れている。 きみはもう子どもではない。 しかし、大きな樹の後ろには、 いまでも子どものきみが隠れている。 長田弘「森のなかの出来事」より 上記の詩は、 『人はかつて樹だった』 ISBN:978-4-622-07229-4 という、長田弘の詩集におさめられています。 この詩集の表紙に使われているのは、ドイツの画家、カスパー・ダーヴィト・フリードリヒの「孤独な木(朝の田園風景)」の絵。 山を背景に一本のオークが画面中央に立ち、木の根元の前には水辺が広がっている。羊飼いは木に凭れかかり、羊達は安らかに草を食む。 200年前に描かれた風景画です。 フリードリヒの絵画には、北方系の暗さが漂います。 私はその暗さが好きで、拙作『雨ざんざん』の作中に、フリードリヒの画集を出したり、登場人物のドイツ人は、フリードリヒが長く居住・活躍したドレスデンの出身という設定にしました。(自分が好きなものを物語に織り込む…自己満足ですが、楽しいです。) 日本でも廃墟人気で、国内外の廃墟系写真集が相次いで出版された時期がありましたが、フリードリヒが描く「森の僧院」や「氷の海」に魅かれるのは、その感覚に近いかもしれません。
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