模様

1/4
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

模様

何だこれは…。 未来(みき)の後を追うように店に入った青島は、唖然とした。 「駅前の居酒屋に友達と行くので、良かったら来ませんか。」 未来から誘われて、迷いに迷って結局タクシーに乗り、駅に着いて電話をすると、未来が早足で迎えに来てくれた。 「社長、こんな所まで来て頂いてすみません。それから怒らないで下さいね。」 息を弾ませながら話す未来に、いささか不安を感じながら、店に入った。 6人掛けのテーブルの片側には、知らない男女と王が座って既に飲み始めていた。 「向こうへどうぞ。」 と未来に言われるがまま、奥の席に座る。 「社長、王くんは知ってますよね。隣は親友の佐々木綾香(ささきあやか)です。そしてこちらは、私の部屋の大家さんで地元の後輩の清瀬くん。」 「大家さん?」 青島は、清瀬の顔を見て驚いている。 「僕はただのすねかじりです。先輩も大家さんって言うのやめて下さい。」 清瀬は決まり文句のようにそう言って、相変わらずにこにこと笑っている。 「それで、こちらが青島社長です。私の元雇い主で、今も大変お世話になっている方です。」 青島は渋々と言った様子で挨拶をした。 「こんばんは。初めまして青島です。」 青島が軽く会釈をしたところに、ビールが運ばれてきて、改めて乾杯をした。 「清瀬くんは王くんの通う大学で事務の仕事をしていて、学園祭が終わってから、みんなで移動したんです。」 未来がそう言うと、綾香が続けて話し出した。 「それで、二人も誘って青島社長も呼んじゃおうって私が言って。突然すみませんでした。」 あっけらかんと言う綾香に、未来は申し訳なさそうに青島の顔を見た。 青島は未来のその様子が気の毒に思えて、苦笑いを浮かべて言った。 「少し驚いたけど大丈夫。気にしないで。」 青島は多少の居心地の悪さを感じながらも、友人たちといるプライベートな未来の姿を見るのも悪くないと、開き直って飲み始めた。 共通点は未来の知り合い、というだけの寄せ集めの会は、綾香が盛り上げ役になって、それなりに楽しい時間になっていた。 「清瀬さんは、彼女いるの?」 ほろ酔いになってきた綾香は、隣に座る清瀬に聞いた。 「いません、いません。」 「だったらみんなフリーなんだね。フリーの会だわ。」 「王くんもいないの?あんなに人気があるのに。」 清瀬は意外だと言わんばかりに、王に向かって言った。 「ハイ。イマセン。」 「今日だって屋台、大行列だったね。王くんが笑顔になっただけで、歓声が上がって凄かった。」 「ミキサントアヤカサンガキタカラ、ウレシカッタ。」 王がにっこり笑って言うと、綾香は、あうっと胸を押さえた。 「嬉しいこと言ってくれるね。お姉さんは泣けてくるよ。」 未来は綾香が、清瀬のことが気になり始めているのではないかと感じた。 今日が良いきっかけになるといいな、と二人を眺めていると、青島が声を掛けてきた。 「あまり飲みすぎるなよ。」 「はい。今日はサワーだから大丈夫ですよ。それより、すみません。変な感じになっちゃって。」 「お前が楽しそうなら、それでいい。」 そう言って、何杯目かのビールを飲み干した青島は、ハイボールを頼んだ。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!