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3人に見送られて、青島の後から綾香がタクシーに乗り込んだ。
綾香は青島に促されて、行き先を運転手に告げると、隣に座る青島に向かって言った。
「何だか、すみません。」
「いや。ついでだから気にしないで。」
と優しく返した。
「あの子といると、やきもきしますよね。」
綾香がそう言うと、青島は驚いた表情で振り向いた。
「今日、聞きました。保留中だって。未来が尊敬する青島社長に会っておきたくて、無理言いました。来てくださって、ありがとうございます。」
「それで親友の君から見て、心配は増したのかな?減ったのかな?」
青島の言葉に、綾香はふふっと笑った。
「一喜一憂させられている社長さんを見て、少し安心しました。今も気が気ではないですよね。清瀬さんがいると言っても、王くんが一緒だと。まるで子犬のように未来に懐いちゃって。」
楽しく飲んでいるだけだと思っていた綾香に、青島の相好が崩れた。
「参ったな。」
「さすがに私でも驚きましたから。一緒にタクシーで帰れだなんて。嫉妬って、信用とか関係ないと思いませんか?あの子、やきもち妬いたことあるのかしら。」
「ただでさえ無い自信を、何度もへし折られていますよ。」
青島は自嘲的に笑った。
「ああいうのを、小悪魔って言うんですか?青島社長なら、たくさん見てきたでしょう。」
綾香の口調には、多少の当て付けが含まれていたが、青島は何かしら思案するように真顔になって答えた。
「小悪魔なら、まだ扱いやすい。でも天使には、なかなか手は出しにくい。天使か本物の悪魔か。」
青島の言葉に、綾香はよくもまあそんな恥ずかしいこと言えるな、と思いながら伝えておきたかったことを、口にした。
「未来が、どんな返事をしたとしても、私は応援します。だから青島社長も変わらないでいてあげて下さい。よろしくお願いします。」
そう言って、綾香はバッグから財布を取り出した。
「タクシー代なら、いらないよ。ついでだ。」
青島が、そう言うと綾香はにっこり笑って、ありがとうございます、と言った。
「あいつも、それくらい素直だといいんだが。」
思わず口を突いて出たような青島の言葉に、綾香はタクシーを降りながら言った。
「でも、そういうところが好きなんですよね。」
綾香の捨て台詞に、当然返す言葉はなく、青島は運転手に元来た道を戻るように伝えて、シートにもたれ掛かった。
一方、タクシーを降りた綾香は、おかしそうに笑いながら携帯を取り出した。
タクシーを見送った3人は、とりとめのない話をしながら駅から歩いた。
アルコールの入った体に、ひんやりとした空気が寒さを助長する。
3人の住む古民家に着いて、まずは未来が、おやすみなさいと、二人に声を掛けた。
清瀬も、おやすみなさい、と頭を下げた。
「ミキサン、スコシ、ハナシタイ。」
王が言って、清瀬は驚いた様子だった。
「王くん、寒いよ。明日も早いでしょう。風邪引いたら大変だよ。」
未来は言い聞かせるように、王に言った。
「スコシダケ。」
子犬とはよく言ったものだと、綾香の言葉を思い出しながら未来は頷いた。
「寒いね。コンビニにコーヒー買いに行こ。自分で入れる元気はないから。」
と未来は、王を見上げて言った。
「先輩、大丈夫?」
清瀬は申し訳なさそうに、未来に聞いた。
「うん。コーヒー飲んだら、ちゃんと帰ってもらうから。」
清瀬はもう一度、おやすみなさいと言って心配そうに二人を見ると、外階段を上がって行った。
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