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未来は王と駅の方へ戻るように歩いて、やけに明るく感じるコンビニの店内に入った。
メニューを見ているうちに、突然、甘い物が飲みたくなった未来がココアを頼むと、王が後ろから、フタツと言って、まとめて支払いを済ませてしまった。
ココアを両手で持って、家までの道を無言で歩いた。
カップはよく出来ていて、残念ながら持っているだけでは、それほど暖かくない。
二人座ればいっぱいの外階段に、並んで腰を下すと、ココアを一口飲んだ。
甘さが口に広がり、冷えた体の中をとろりと温かい物が伝っていくのがわかる。
「ミキサン、ボク、ナイテイ、モライマシタ。」
突然の報告に、未来は驚いて王の顔を見た。
王は、ゆっくりと未来の方へ顔を向けると、少し寂しそうに微笑んだ。
「おめでとう。さっき言ってたのは、もしかして本当だったの?」
未来が首を傾げるようにして尋ねると、王も鏡を見ているかのように首を傾げて、ハイ、と言った。
「タイワンノカイシャデス。ニホンニモ、シシャハアルケド、2ネンハ、タイワンノホンシャデ、ハタラキマス。ナツニハ、タイワンニカエリマス。」
居酒屋で目があった時に物悲しげに見えたのは、いつか来る別れではなくて、もう決まっている別れが理由だったのかと、未来は思った。
「夢が叶って良かったね。私も嬉しい。」
それは心からの言葉だった。
未来はココアを口に含むと、もうぬるくなってしまっていることに気がついた。
「アオシマシャチョウハ、ミキサンノコト、スキミタイ。」
未来は飲んだココアを吹き出しそうになって、思わず咳き込んでしまった。
「ダイジョウブ?」
王は目を丸くしながら、心配そうに未来を見ている。
「びっくりした。王くんが突然、変なこと言うから。」
動揺している未来に、王はすかさず聞いた。
「ミキサンモ、スキデスカ?」
横顔に、王の視線を感じながら、建物の隙間を切り取ったような空を見上げて、未来は答えた。
「まだ本人に伝えてないことは、言えないな。」
王は、ソウデスカ、と意外にもあっさり言うと、ココアを飲み干した。
「ミキサン、ハナシキイテクレテ、アリガトウ。ナイテイノハナシ、カゾクシカ、シラナイ。ナイショネ。」
そう言うと王は立ち上がって、未来へと右手を差し出した。
未来は笑顔で、その手に掴まると立ち上がった。
立ち上がった拍子に、未来の額に温かく柔らかい物が触れた。
びっくりして王を見上げると、まるでいたずらっ子のような顔をした王と目が合った。
「スキダト、イワナイカラデス。」
そして王は、オヤスミナサイ、と言って未来の側を擦り抜けるようにして、階段を上がって行った。
未来が呆然と立ち尽くしていると、1台のタクシーが止まるのが見えた。
それで我に返った未来は、家に入ろうと外階段の脇から奥へと進んだ。
「中西?」
聞き覚えのある声に驚いて振り返ると、そこに立っていたのは青島だった。
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