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願い事を叶えてやりたい
「神様、お願いします」
今日も神社のお賽銭箱の前で、手をあわせている青年がいる。
青年は、毎朝のように来ては、ここで願い事をしている。
神様お願いしますと最初に声にだして言い、それ以降は心の中で願い事を言う。
願い事は、いつも同じだ。
弟の怪我が早く治りますように。受験合格しますように。
この二つを願ったあと、いつも帰っていく。
この暇な神社にまつられている神として叶えてやりたいのだが、俺にそんな力は無い。
神の力は、その神社の綺麗さ、知名度、広さなどで決まる。だから、こんな雑草が生えてて、地元の人しか知らないこの神社に居る俺の力は弱い。
昔はもう少し強かったのだが、年々参拝客が減ってるせいでどんどん弱くなっている。
昼になっても夕方になってもそれ以降人は来ない。
「今日も来るのは青年一人か。彼の願いを叶えるのは今の俺だと無理だが、少しくらい運を良くしてあげることは出来そうだな……」
「あっ、あの。今、今の俺だと無理って言いましたよね」
声のした方を見るといつもの青年が居た。
人間が誰もいないからと、姿を見せていたせいで気づいたのだろう。
にしても何故今ここにいるんだ?
まぁいい。とりあえずこの青年と話すか。
「ああ、言ったが。それがどうした」
「どうすれば願いを叶えられますか?」
「お前はどっちの願いを叶えて欲しいのか?」
「一つでしたら、弟の怪我を早く治して欲しいです。一ヶ月後に中学校陸上部の最後の大会なんです」
最後の大会か。それで毎朝ここで願っていたのか。
まぁ、治すのは無理でも治るスピードを早くするくらいならもう少し力があればできるな。
「青年、時間はまだまだあるか」
「はい。今日はまだまだ時間はあります!」
「わかった。じゃあ、この神社の掃除をやってくれ。雑草抜きと、雑巾で拭くのはできるか?」
「はい! できます!」
「雑巾は干してあるのを適当に使ってくれ」
「はい!」
青年は元気に返事をすると雑巾であっちこっち拭き始めた。
しばらく別のことをやっていると、神社は綺麗になっていた。
ホコリはないし、雑草もなくなっている。久々に見た光景だった。
意識を集中させると、俺の力が強くなっているのを感じた。
「できました!」
「ああ、助かった。じゃあ約束通り、弟さんの怪我の治りを早くしよう。手をだせ」
「は、はい」
青年の手に、俺の手を重ね、彼の願い事が叶うように祈った。
俺の手から青年の手に光が渡っていく。
「あとは、お前が弟に触れれば願いは叶う」
「ありがとうございます!」
青年はそう言うと、笑顔で走って帰っていった。
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