672人が本棚に入れています
本棚に追加
小さく頷いて席を立つ。
時間が経つのはあっと言う間で、それは寂しいこと
かもしれないけど大丈夫。
だって、あの時と違って今は帰る場所が同じ
だから。
だからもう寂しくない。
お会計を済ませた奏さんは、ごく自然に私の右手を
拐う。
それに答えるようにそっと指を絡ませれば
ぎゅっと握り返される右手。
ドアを開いた先には綺麗な茜色の空が広がって
いた。
今の私達は雨がなくても、寄り添って帰ることが
出来る。
なんて贅沢なんだろう。
あの時の私には、きっとこんな未来は考えられな
かったはず。
「いつか3人で食べに来たいね。」
お店を出る瞬間、ふいに囁かれた言葉に思わず顔を
上げた。
そこには楽しそうに笑う奏さんが居る。
その言葉の意味を理解した私は顔が熱くなっていく
のを感じた。
「はい。」
恥ずかしくて、とても顔を見ながらなんて出来な
かったけど、ちゃんと返事をする。
───いつか3人で。
それは遠い未来なのか、それとも近い将来なのかは
分からない。
だけど、早くその日が来るといいなって心の中で
そっと願った。
最初のコメントを投稿しよう!