After story/ホットミルク

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御手水を済ませて参道へ向かうと既に列が出来て いてそこへ並ぶ。 私達の番がくるまでに何をお願いしようか考えなく てはいけない。 「どうしたの?」 隣から奏さんのどこか心配そうな声がかかる。 「具合が悪くなったなら我慢しないで言ってね。」 「いえ、そうじゃないんです。」 「本当に?」 おもむろに右手の手袋をとった奏さんは、寒さで 赤らんだ私の頬に気遣わしげに触れた。 その優しい体温が、声が、眼差しが沁みていく。 「だいぶ冷えてしまったね。 帰ったらホットミルクを飲もう。」 「ありがとうございます。 でも私のことは気にせず、奏さんはカフェラテを 飲んで下さい。」 「僕がひまりさんと一緒に飲みたいんだ。」 柔らかな笑顔が私を包んだ。 本当に何度この笑顔に助けられただろう。 体調が悪い日も、どうしようもなく気持ちが沈んで しまう日も。 私がコーヒーを飲まなければ、自分まで大好きな カフェラテを飲むのをお休みする。 奏さんはいつもそうやって丸ごと包み込んで くれた。 「...もう感謝しきれないくらいの幸せをもらって いるので、これ以上何かお願い事をするのは神様に 失礼かなって考えていたんです。」
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