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 *  その頃、タルガはテストニアから急遽帰国しろとの連絡を受けていた。タルガは驚いて、自分が何か失敗をしたのかと記憶を巡らせたが思い至らない。上司にしつこく尋ね、理由がハッキリしない限り戻れませんとさえ言った。現在、国益になるはずの情報をキャッチしていて、王室もそれをお望みのはずだから、それを手放せませんと。 「王室がそれを手放せと言ってるんだ」タルガの上司は電話口で重い口を開いた。「おまえは触れなくていいところに腕を突っ込んでる。美術品輸送警護管理だけしていれば良かったのに、余計なことに関わっている。だから帰国命令が下ったんだ」  タルガは驚いた。上司はどこまで知っているのだろう。 「私は王妃に直接、内密の依頼を受けたんですよ」依頼内容は言えないが、これは切り札になるだろうと思った。 「こっちは国王だ」上司は声を潜めて言った。どうもこれも他言無用の件らしい。タルガは唇を噛む。王妃と国王では、もちろん国王が優先されるべきだ。しかし。理由がわからない。 「国宝に関する話なんです。国王はご存じないから…」 「いいから何もせずに今すぐ帰って来い」  電話が切れて、タルガは呆然と部屋の壁を見つめた。  ふつふつと怒りがわき上がって来る。どうしてだ。なぜ自分がやっていることが理解されない。王妃は返還を望まれているのに、国王は望んでないとは。  今すぐとは急な。タルガは怒りと戸惑いを抱えながら、拳を握りしめた。とにかく事態を現在のパートナーたちに伝えなければ。
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