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 *  クラムチャウダーを口に運びながら、賢は携帯電話を取った。 「食事中は切っておけ」エプロン姿の小島がたしなめる。賢は無視して通話ボタンを押した。 「小島さん、相変わらず腕いい! 私、小島さんのお店に行きたかったなぁ」ナナが機嫌を回復させて喜んでいる。龍太郎がフランスパンにガーリックバターをぬって焼き上げたものを運んで来て、食卓の上にいい匂いが広がる。  龍太郎はワイングラスに新しいワインを注ぐ。 「おう、ブロさん」賢はガーリックトーストを手を伸ばしてつまみながら電話に答えた。 「平塚さん、王室から手を引けと言われました。帰って来いと」タルガは急いで話した。  賢は笑った。「そっかぁ。こらナナ、俺の分も残しとけよ」と皿のチキンをフォークで刺す。行儀悪いぞと小島が睨む。龍太郎が笑っている。 「聞いてるんですか」タルガはイライラしながら言った。事務所の事務員たちがテストニア本国の辞令を受けて、慌ただしく動き回っている。タルガには本国にて重大任務が発生したから緊急帰国せよと連絡が来ている。それを受けての慌ただしさだ。 「聞いてる、聞いてる。いつ帰んの?」 「その前にグラン・ブルーとティアラを返還してくださいっ!」タルガは怒鳴る。  賢は舌うちをした。「うるせぇな。三日後やって言ったやろが。今は飯食ってんねん」 「そんなものより大事なものがあります」 「飯の方が大事やろ」 「国王からストップがかかったんです。王妃は返還を望まれているのに」 「ははは、いろいろ大変やな」 「せめてグラン・ブルーだけでも返還していただけませんか?」 「え、今日は無理。九時五時しか営業してへん」 「な、何をおっしゃってるんですか。あなたが預かっているとおっしゃってたでしょう」 「国王がやめとけって言うてんねんやったら、やめといたら?」 「平塚さんっ!」 「何や」賢は携帯電話口に向かって怒鳴り返した。「王室が手を引けって言うてんやったら、手を引いたらええやろ。役所勤めの人間は、上には頭が上がらんのやから。俺はテストニアと日本との争いに首をつっこむつもりはないで」 「平塚さん、少なくとも王妃は返還を望んでいるんです」 「国王は望んでへんねやろ」 「あなたは誰の味方なんですかっ!」 「俺は俺の味方や。切るで」 「平塚さん、今ご自宅ですよね。今から行きます」 「来るな。国王に帰れって言われてるんやから帰れよ。俺が国王に怒られるやろが」 「どうして平塚さんが怒られるんですか。接点はないでしょう」 「なぁ、ブロさん…」 「待っててくださいっ」  電話が切れ、賢は肩をすくめた。待てへんな。 「誰?」ナナが聞く。賢はチキンを頬張る。 「知らん奴」 「えー、めっちゃ喋ってたやん」ナナがふくれる。 「賢は間違い電話とでも長話するから」龍太郎が笑った。 「おまえ、変わっとらんなぁ」小島が目を細めて言い、賢は心外に思った。  賢は舌うちをした。 「くそ、なんで俺がクソジジイの始末をせなあかんねん」  そう言いながら、賢は席を立ち、イライラしながらどこかに電話をかけ、階段を上がって自室に戻って行く。  龍太郎と小島とナナは、賢の言葉の意味がわからず、顔を見合わせた。  しばらくすると、賢は上着を羽織って下りて来た。 「ちょっと出て来る」 「待ってよ、賢、どこに行くの?」ナナが声をかける。追いかけるつもりはない。  賢は三人を振り返り、それから皿を見た。 「俺の分、残しとけよ」  龍太郎はワイングラスを掲げてオッケーサインとし、小島は賢が何か悪いことをするのではないかと不安に襲われた。
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