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 *  賢は後ろから一撃を浴びたあと、目の前に星が現れる状態のまま、荒っぽく引きずられ、車に乗せられる。体を起こすことができないのは、たぶん後頭部から血が出ているからだ。吐き気がして、たぶん死に近づいたなと実感する。俺、死ぬんやなと思う。怖ぇよ。賢は冷や汗をかく。今でも痛いのに、まだ痛くならないと死ねないと思うと憂鬱だ。  車は適度に揺れ、賢は目を閉じた。すぐに睡魔がやってきた。  次に目が覚めたのは、車からひきずり下ろされて、体を地面に強く打ち付けたからだった。  ズリズリと引きずられ、穴に放り込まれる。無言で、灰色の質の悪いコートを着ている男が、スコップで土を放り入れる。賢は顔に土を受けて何とか腕をあげて、目と口についた土を払った。次々に土が放り込まれる。  殺し屋だと賢は思った。無言で土をぶっかけてくる、この男。  賢が動いていても気にせず、どんどん生き埋めにしようと作業を進める。  賢は土の重みに、自分の根性が負けるんじゃないかと思った。腕も足も背中も痛い。きっとあちこち折れてるか、ヒビが入っている。頭がぬるぬるするのは、血のせいだろうし、体が熱いのも傷のせいだろう。意識も朦朧としているのがわかる。視界が揺れているし、焦点が合わない。そして何も考えられないぐらい頭が痛くて吐き気がする。実際に吐く。唇についた土が気持ち悪い。目に土が入る。土が重い。  ムカつく。心からムカつく。俺がおまえに何をした。何の断りもなく俺に危害を加えやがる。そして殺そうとしている。金ももらってないくせに。自分の欲のために殺人をするのは、殺し屋として間違ってるだろうが。金をもらえよ。クソ。  賢は辛うじて動く右腕で自分のジャケットのポケットを探る。服が自分の下敷きになってポケットに手が入らない。舌うちをして体を動かす。激痛が走るが、死にそうになってる今、痛いとかもうどうでもいい。もうすぐ腕が埋まって動けなくなる。既に足が埋まってる。体の半分が埋まっている。さらに土が重い。  賢は最後の力を振り絞り、腕を真っ直ぐ突き出す。森口から奪った拳銃が握られている。  暗闇で殺し屋の目が小さく光った気がする。その光に向けて、賢は引き金を引く。この前、港で生まれて初めて撃ったときは、飛び上がりそうに驚いたが、もう驚かない。反動にも心構えができた。どうせ腕なんて折れてる。肩だってきっと欠けてる。何を心配することがある。  三発、続けて撃った。三発目には灰色の塊が穴の方に落ちて来たが、賢には逃げる術もなく。意外と重い巨体がのしかかる。ピクピク痙攣している殺し屋が息絶えるのを、賢は目の前で見続けることになる。悪夢だ。俺もこうやって死ぬんだと神様がたしなめているのだと思う。拳銃でこめかみを撃ち抜きたくなるが、実際、上に人が乗っているので腕の自由が利かず、何ともできない。  賢は木立が揺れる黒い影を見上げ、俺は何ヶ月もたってから白骨化して発見されるんやろかと泣きたくなった。
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