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「あのブロフスキスって人の父親は、俺のジイさんと友達やったらしい。どういうことがきっかけかは知らん。クソジジイも何やっとるかよくわからん奴やったしな。でも、ジイさんの資料をめくったら、ロシアマフィアとイザコザになったときに、ブロフスキス氏に助けてもらったみたいな感じやった。命の恩人や。そやから王室の宝を預かったんかもしれん。テストニア出身のブロフスキス氏は、ロシアの工作員やったけど、郷土愛は強かった。テストニアの宝がロシアに奪われるよりは、どこかの盗賊に奪われたほうがええと思った。ちょうど王室もティアラを隠したい事情になってたしな」
「隠したいって?」小島は腕組みをしたまま賢を見る。
「ティアラの破損や。おそらく何かの事故で結婚式前にティアラが壊れた。王妃か国王か知らん。当時の皇太子かもしれん。誰にせよ、そんなことバレたらマズい。修理する間だけでも盗まれたことにしようと思いつく。ちょうどロシアも欲しがってたところやから、守るという名目も立つ。うちのジイさんがブロフスキス氏の縁で預かる。そんで返還もちゃんと約束してた。ただ、その直後、独立運動が活発になった。テストニアがロシアと争ってゴチャゴチャになり、返すに返せんかった。それから何年後かにロシアから独立したテストニアに、やっと返せる日がきた。ところが、ロシアの工作員やったブロフスキス氏は、テストニアに帰るために身分を隠した。自分は死んだフリをして、ティアラの返還に個人的に取り組みはじめる。森口に接触したロシアマフィアっていうのが、ブロフスキス氏やった。そこに息子が横から関わって来たんは、偶然やったけどな」
「また偶然か」小島はため息をつく。
「必然かなぁ。何にせよ、俺らはみんな、好きに生きてるようで、いろいろ糸がつながっとるってことやな」
「なんや、適当にまとめられたな。賢、こんな話を俺に聞かせて、俺はどうしたらええねん」
「どうしたらって。好きにしたらええ。俺は自分が法的にどれぐらい悪いことをしたか、ようわからん。逮捕するんやったらしてくれ」
「するか、アホ」小島は大きく息をついた。
「逮捕せんのやったら、退院したら頼みたいことがある」
「何や」小島はもう半ば諦めている。
「龍太郎に料理を教えたってくれ」
「え?」龍太郎と小島は同時に聞き返す。
「西田はプランナーやめて、店長やれ」
「は?」西田も驚く。「何を言うてる。店長って…」
「ナナは看板ウェイトレスや。小島のオッサンの料理を、俺が食いにいく」
賢が言って、ナナも首をひねった。ウェイトレス?
「店は森口が用意してる。金は俺が出す。絶対に儲かる。刑事のオムライスは最高やし、龍太郎はそれを完全マスターできるやろ。西田は雑魚の犯罪者集めてるより、仕事のできる人間を采配する方が腕を発揮できるし、ナナは可愛い制服着たいって言うてたやろ。自分でデザインしたらええ」
「え。やるやる!」ナナがまず賛成した。
「采配か…」西田も舌を舐める。「ギャラはええんか?」
「何の金にもならん仕事をしてるよりはな」賢は皮肉っぽく答えた。
西田は口を曲げて肩をすくめた。それを言われると辛い。
「俺は…料理人? 賢と一緒にやるんやったらやる」龍太郎は賢を見た。
「俺はオーナーや。俺は料理もできんし、客に愛想も振れん。でも何が客に受けるかはわかる。誰がどの仕事に向いてるかもわかる。刑事は刑事よりも料理人に向いてる」
小島は小さく息をついて、賢を見た。コンビニの前で会話した内容を思い出す。
「おまえ…、俺を追いつめとるやろ。俺は窃盗犯と親密に喋って、しかもそいつを逮捕できず、おまえは刑事なんかやめて料理人に戻れって言うとる。困るやないか。迷うやないか」
小島が言って、賢は笑った。
「こういうチャンスはもう来んかもしれん。神様は俺には優しいけど、他の奴にはどうかな」
賢はそう言って、自分以外の四人を見比べた。
小島も自分以外の人間を見る。確かにな。このメンツで店をやったら、何か楽しそうではあるよな。
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