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四代目銅謙組組長銅田謙吾が部屋の真ん中に突っ立っていた。ヤクザの見本のような面した銅田謙吾親分が恵比寿顔で笑っている。その面をみた瞬間に何とも言えぬ嫌な予感がした。
若頭の松山が窓際に寄りかかっている。仏頂面。いや、むしろげんなりとした顔。そんな松山に、親分は恵比寿顔を向けた。
「松山。わしは席を外すぞ。後はおまえに任すから良いようにやっとけ」
「はい」
松山若頭は上目遣いに親分を睨みながら頷いた。松山は俺と目を合わそうともしない。
「高無よ。これは小遣いだ。とっとけ」
親分は分厚い封筒を俺に差し出した。受け取った。中身が見えている。卒倒しそうになった。封をした一万円札が一束。百万円。触ると手が切れそうな新札だ。
「親分、これ」という舌足らずな言葉しか出てこない。
「いいからいいから。わしの気持ちよ。おまえのような良い子分を持ってわしは幸せ者よのう」
親分は恵比寿顔を崩して泣き真似をしながら部屋を出ていった。
「早くクルマ回さんかい。ボケどもが」
扉の向こう側。いつものお馴染み。親分の雷声が落下する。
「はい。ただ今すぐに――誰かクルマ回しとけよ馬鹿野郎」
若頭補佐の金山が新入りたちに怒鳴り散らしている。珍しくもない日常の光景。
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