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扉が内側にゆっくりと開いた。戦国大名の肩にとまった鷹のように鋭く忠実な目をした組員が顔を覗かせた。中へ入るようにと組員はジェスチャーした。その容貌、身のこなしから見て、組員はどうやら松山のボディーガードらしい。ボディーガードの肩越しに、部屋の奥のテーブルと椅子が見えた。テーブルの向こうには松山が座っていた。若頭の野田も椅子に座っている。
部屋は、バスルームやトイレ、洗面台等が入り口の辺りに集中した造りだった。ベッドの類いは見えないが、部屋の左手側の奥の扉の向こうにあるのだろう。特に変わったところのないありふれた造りの部屋だった。
「武器と時計などをお預かりします」
ボディーガードの険しく冷徹な視線が突き刺さる。俺は左腕から時計を外してそれをボディーガードに預けた。盃事の間は腕時計や指輪をしていてはならないのだ。
「武器は持っていない」
「念のため調べさせてもらいます」
ボディーガードの両手が俺の全身を探った。もちろん今の俺は財布と携帯電話しか身につけていない。
「失礼しました」
ボディーガードが道を開けた。俺はサングラスを外してそれをポケットに入れた。
「高無、座れ」
松山が目の前の椅子を指した。
俺は前に進んだ。「失礼します」俺は椅子に腰を下ろした。
「見届け人も取り持ち人もなしだ。まったくの略式で申し訳ないが、状況が状況だ。済まんが堪えてくれ」
「はい」
俺は神妙に頷いた。
松山が差し出した盃に、酒が注がれた。すべて飲み干して、盃を懐に納めた。
「高無、これまでに色々あったが、これで俺とおまえは親分子分の間柄になった」
しばらくは言葉のない時間が続いた。松山はなにも言わず、俺もなにも言わない。もちろん、野田も口を閉じていた。やがて松山はボディーガードを見て目で促した。ボディーガードが腕時計を差し出したから、俺はそれを受け取った。
「銅謙組は散々な目にあったらしいな」
松山が言った。
「ブライアンがカラシニコフを撃ちまくりながら大暴れですよ」
「警察から聞いたんだが、五十人近くも殺られたらしいな」
「ええ、直に見てきました。阿鼻叫喚とでもいいますか、中東やアフリカの紛争地帯に行ってもあんなのはなかなかお目にかかれないでしょうね」
「会長、そのブライアンとかいう気狂い野郎なんですが、早いとこ探しだしてぶち殺したほうが良くありませんか」
野田が身を乗り出した。
「うーん」
松山はテーブルの一点を見つめながら低く唸った。考えている。だが考えがまとまらなかったのだろう。松山は顔を上げた。
「高無。おまえは自分の目で見てきたわけだが、どう思う?」
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