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「ブライアンはイカれてるし危険です。もしもブライアンがこの世にもうひとりいたとしたなら、そいつにブライアンを殺らせればいい。ブライアンを確実に殺れるのはブライアンだけです。でももうひとりのブライアンなんて想像上の生き物です。そんな便利な野郎なんて世界中探してもどこにもいません」 「まあそうだろうな」 「銅謙組はブライアンを騙し討ちしようとしてあの有り様ですよ。ブライアンにはこちらからわざわざ関わったりしないほうが身のため組のためです……」 俺の言葉を遮るようにして野田が身を乗り出した。 「いや、しかしなあ。会長、あんな気狂いを街に野放しにしとくのはどうかと……」 野田は、松山会長の顔に不機嫌な色が浮かんだのを見て、そのまま言葉を飲み込んだ。 「会長、ブライアンにはこちらからわざわざ関わるべきではありませんよ。しかし向こうから近寄って来て目の前に現れたら話は別です。そのときはためらわず絶対にその場でブライアンを討ち取るべきです。会長も常日頃から武器を手もとにおくなり、ボディーガードの人数を増やすなり、備えと覚悟は怠りなくしておくべきです」 俺は言った。野田は俺を睨んでいる。なにか言いたそうだが、さすがに今は内輪揉めしているときではない。野田も決して愚かではないからそれを心得ている。それに俺は間違ったことは言っていない。 「よしわかった」 松山は右手で膝を打った。 「ブライアンは放っておく。もちろん目の前にブライアンが現れたらどんな手を使ってでも引導を渡してやるが、わざわざこっちからブライアンを探さない。まあ、放っておけばいずれ街から出ていくだろう。あとは警察に任せればいい」 警察に任せて警察がどうにか出来るぐらいならこの俺がとっくの昔にブライアンを始末している。ブライアンは甘くない。殺し屋ブライアンの本当の危なさというものが、どうにも松山や野田に伝わっていないような気がしてならない。やはり実際にあの恐ろしさを自らの目で見て体感しなければ、ブライアンという男の異常性は明確にイメージなど出来ないのだ。 「高無、そういえば大手柄だぞ」 「と言いますと?」 わざと分からないふりをした。 「謙遜するな。銅謙組の看板だよ」 松山は恵比寿顔になっている。 「本当によくやった。あれだけでもおまえは幹部になる資格がある」 「ありがとうございます」 「あの看板を上手く使えば銅田の親父を黙らせられるし、銅謙組を丸ごと松山会の傘下にも入れられる。銅田の親父は今頃は恥も外聞もなく泣いてるだろうぜ」 松山は高笑いしている。野田もつられて笑った。 「高無。おまえ、今夜は疲れてるんじゃねえか」 「はあ」 「二三日ゆっくり休んでいいぞ。落ち着いてから事務所に顔だしてくれればいいから」 実を言えば松山会長の言うとおり、確かに疲れている。今だけは言葉に甘えたい。それに松山会長は、明らかに俺を早くここから追い出したがっている。きっと松山はこれからここで誰かと会って何らかの会合を開くか取り引きでもするつもりだ。 「では会長。俺はこれにて失礼します」 「明日か明後日には事務所のシケ張りをやめるように警察に話を通しておくから」 「では」 一礼して部屋を出た。分厚い絨毯が敷き詰められた真っ直ぐな廊下を進み、観葉植物の裏に右手を入れた。44マグナムを手に取って腰のベルトにしっかりと固定した。
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