18

16/28
前へ
/221ページ
次へ
「銃を降ろすんだ真山」 新川の声音はごく低いものだったが、言うことを聞かずにいられない不思議な圧力に満ちていた。しかし頭に血が上った真山には、もはや新川の声さえも届かない。 「いや。銃を引っ込めるのは高無が先だ」 「言うこと聞けよ真山。この馬鹿野郎が」 金山が街宣活動で鍛えた喉を震わせながら、割れんばかりの大声を張り上げた。 「親分、もう話していいですよね。夜が明けたらどうせ全国に通知が回るんだ」 金山の発した声はまるで尻の毛を抜かれながら絞り出したかのように悲痛そのものだった。銅田謙吾は沈痛な面持ちで頷き、真山を押し退けながらエレベーターから歩み出た。金山と新川もそれに続いた。少しの間をおいてエレベーターの扉は閉じた。 「金山、おまえの口から教えたれ。どうせこやつは松山の盃をもらって浮かれておっても肝心なことはなんも聞いとりゃせんのだろうからな」 銅田謙吾は真山のワルサーを手のひらで叩いた。「物騒なもん引っ込めんかい。この馬鹿たれ者が」 「はあ」 真山は渋々ながら拳銃を引っ込めた。俺もマグナムを腰のベルトに差して、それを上着で覆い隠した。 「うちの組はなあ――」 金山はいったん言葉を切り、歯を食い縛った。 「警察と話し合った結果、解散することになったんだよ」 「解散ですか?」 「もう決まったことだ」 「ブライアンに滅茶苦茶にされてからまだ二時間も経ってないでしょう。判断が早すぎませんか」 「組員が五十人以上も殺られたんだぞ。警察は親分の任侠界からの速やかなる引退と組の解散を強硬に迫ってきた。さもなくば幹部から末端に至るまでの全組員を逮捕するんだとよ。警察の圧力から逃れる方法は解散しかない」 「わしはのう――」 銅田謙吾は白いハンカチで目の周りを拭った。 「子分どもの命と組の縄張りを託すために松山の阿呆に会いに来たんじゃ。分かったら道を塞いどらんで、早くそこからどかんかい」 俺が廊下の隅に寄ると、銅田謙吾は項垂れながら廊下を真っ直ぐ歩いて行った。かつて俺の親分だった男の背中が、ひと回りもふた回りも小さく縮んで見えた。 金山が銅田謙吾の後に続き、それに真山が従った。 去り際、新川が俺の耳元に囁いた。 「高無さん。私は松山会長の盃をもらうつもりです。そうなれば私たちはまた兄弟分ですね」 新川は涼しげな微笑を残し、俺に背中を向けて去っていった。
/221ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加