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三台の高級車のドアが一斉に開き、灰色のアスファルトに組員たちが降り立った。組員たちは八人。いずれも若い。八人の中に上田の顔もあった。八人全員が拳銃を手にしていた。上田の手にしたベレッタM9が黒く鈍い光を放っていた。 上田が洗練された動作で左手を振った。組員たちは兵隊アリのように動きだし、フィアット500の真横に並び立った。 あまり見覚えのない顔の組員と目があった。組員はまだ若い。おそらく十代半ばぐらいだ。俺の命を是が非でも奪い取って手柄にしたいのだろう。組員は血走った目をギラギラと光らせながら錆びだらけのトカレフを握り締めている。 俺はグロック43を抜いて、引き金に指を添えた。 「殺れ」 上田が俺に対する死刑判決を宣告した。組員たちはそれを無言で受けて撃鉄を起こし、素早く発砲準備を整えた。 俺を狙う八つの銃口が、一斉に炎を吐き出した。それはストロボのように、繰り返し、繰り返し、何度も明滅した。 銃声が激しい雷鳴となって轟いた。集中砲火によって四方の窓ガラスが粉々に砕けて散った。ガラスの破片が夜の街の明かりを反射して、この世の物とも思えぬほどに美しく輝いた。 車内を大量に舞うガラスの粒が静止して見える。鋭い痛みが熱い炎となって身体を真っ直ぐに貫いてゆく。銃弾が車内を縦横無尽に飛び交って唸りを上げた。タイヤを撃ち抜かれたのだろう。フィアットはガクンと揺れて片側に大きく傾いた。 左右の手が握力を失ってゆく。竹田の形見のグロック43が俺の手を離れ、足下の暗がりに転がった。もはや俺はそれを拾い上げることさえ出来ない。そもそもグロックは俺の視界の範囲に存在さえしていない。銃弾が車体を貫通する度に色鮮やかな閃光が瞬いた。やがて視界は赤く染まり、辺りには暗闇が落ちてそれは無限に拡がった。 「もういい、やめろ。撃つな」 上田の声はぞっとするほど冷たかった。上田の手がフィアットのドアに伸びた。ドアがゆっくりと開いた。俺は動けない。だが、左右の目だけは動かせる。霞みつつある視界に上田の影が重なった。 「驚いたな。生きてる――」 真っ黒い影になった上田が車内を覗き込んでいる。 「あんなに弾を食らったのに、まだ生きてるんですか」 「上田……」 声に出したつもりが、少しも声にならなかった。ただ、ヒューヒューという風音だけが、喉の奥から空しく漏れて夜風に溶けた。 邪悪な真っ黒い影となった上田が俺を見つめている。俺の視界は秒を追う毎に霞んでゆく一方だ。上田の表情は分からない。だが上田が俺を見つめていることだけは辛うじて理解できる。 「高無さん――」 上田の手にした真っ黒いベレッタが、俺の眉間にゆっくりと迫った。 「あなたはどこかで道を間違えた。いったいどこで間違えちゃったんでしょうね。でも今さらそれを論じても無意味というものです。あなたのせいでみんな死にました。そうです。あなたのせいなんですよ。心残りでしょう。でも、今さら悔やんでも遅いんです。取り敢えず、銅謙組は俺が五代目となって仕切らせてもらいますよ。組は解散の危機にありますが、俺が必ず復活させますから安心してください。もうお分かりですよね高無さん。田乃木殺しの罪であなたを警察に告発したのは俺なんですよ。あの気色の悪い殺し屋のブライアンを雇ったのも俺なんです」
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