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「道具を渡しとく。必ずこれを使え。これ以外の道具は使うな」 松山は懐から何かを取り出した。タオルにくるまれたそれを大理石のテーブルに慎重に置く。松山は生唾を呑みながらタオルを開いた。真っ黒い自動拳銃が呪われた顔を覗かせた。 「米軍から流れた拳銃だ。ベレッタM9。口径九㎜パラベラム。弾倉に十五発装填済み。薬室(チャンバー)(カラ)にしてある。撃つ前に遊底(スライド)を引くのを忘れるな。じゃないと弾丸が出ないからな」 「はい」 常識だ。それぐらい知っている。 「遊底の内側と銃把の内側には触るなよ。警察の捜査を撹乱するために、わざと指紋をたくさんつけてある。それにおまえの指紋が加わると面倒なことになる。弾倉を取り外して弾丸を調べたいなら手袋を使え。銃の内側にはとにかく絶対に素手で触るな。ところでおまえ、こいつの使い方は分かるのか?」 「まあ大体は」 「大体だと?」 「いや、実際に大体なもんで」 松山は深くため息した。 「いいか、これは大事なことだ。うやむやにするな。これの使い方が分かるのか分からないのか、いったいどっちなんだ」 「使い方ならきっちり分かります。いつかこういうこともあろうかと、銃の専門書を読んで勉強したことがあるんで。分解組立てや手入れの仕方もバッチリです」 「勉強熱心だな。前から分かってたが、おまえは他のボンクラたちとは違う」 松山は懐から煙草を取り出し、まずは自分で一本咥えた。俺がジッポーの火を差し出す前に松山は自分のジッポーで火を灯した。松山は俺にも煙草をすすめた。俺は遠慮した。松山は煙を大きく吐き出した。 「事が済んだら、道具は捨てずに隠しておけ。警察に出頭する身代わり要員はこっちで用意しといた。拳銃の遊底の内側についてる指紋は全部そいつの物だ。後の始末は全部身代わりのそいつが引き受ける。だからおまえは刑務所に行かなくていい。その代わり失敗は許されねえぞ。分かってるよな」 「はい」 「今日は十二月一日だな」 「ですね」 「期限は十二月五日の二十三時五十九分。日付が六日に変わるまでに必ず殺れ」 「はい」 「ああ、言い方間違えたわ。十二月五日の二十三時五十九分までに、例の野郎が確実に死んでるように頑張れ。分かったな」 「分かりましたが、あまり気乗りしませんね」 「馬鹿野郎。俺だって気が進まねえよ。それでも親分がやれって言ってんだからしょうがねえだろうが」 松山は顔面に血管を浮き上がらせながら「これが渡世ってもんなんだよ」と自棄っぱちな声を上げた。それから上着のポケットのサングラスを取り出した。そしてサングラスで顔を隠し、松山は声を潜めた。 「おまえも親分という人間を日頃から良く見て知ってるんだろうからわざわざ言うまでもないとは思うが、親分からもらった百万円は絶対に遣ったりするんじゃねえぞ」 「ですよ、ね」 松山の言いたいことが何となく分かるのだが、それにしてもあまり愉快ではない。 「昨日と今日で言うことが丸っきり違うからな、組長(オヤジ)は。いつ返せと言われてもいいように、あのカネはそっくりそのまま残しとけ」 松山は「いいな」と念を押した。 「はい」
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