ひそみのおもて

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「これじゃだめだ」  そう言うと親方は、手にしていた面を土間に叩きつけた。千秋が一月(ひとつき)かけて、掃除や飯炊きの合間に打った面だった。 「やり直せ」  それだけ言うと、親方は背を向けた。そして鑿を手に取り、自分の作業を再開する。千秋は少し躊躇った後、意を決して問い質した。 「何が、だめなんですか」  親方はしばらく黙ったまま、鑿と槌とを動かしていた。面を打つ音ばかりが響く重苦しい沈黙の中、辛抱強く待ち続けていると、やがて親方が手を止め、口を開いた。 「お前は、神仏を見たことがあるか」 「いいえ」  首を横に振ると、親方が嘆息を漏らす。 「それでは話にならん。神仏を知らぬ面打ちなど、男を知らぬ白拍子と同じだ」  そして、ゆっくりと振り向き、険しい顔のまま言った。 「神仏を探せ。お前の神仏を」
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