3人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「これじゃだめだ」
そう言うと親方は、手にしていた面を土間に叩きつけた。千秋が一月かけて、掃除や飯炊きの合間に打った面だった。
「やり直せ」
それだけ言うと、親方は背を向けた。そして鑿を手に取り、自分の作業を再開する。千秋は少し躊躇った後、意を決して問い質した。
「何が、だめなんですか」
親方はしばらく黙ったまま、鑿と槌とを動かしていた。面を打つ音ばかりが響く重苦しい沈黙の中、辛抱強く待ち続けていると、やがて親方が手を止め、口を開いた。
「お前は、神仏を見たことがあるか」
「いいえ」
首を横に振ると、親方が嘆息を漏らす。
「それでは話にならん。神仏を知らぬ面打ちなど、男を知らぬ白拍子と同じだ」
そして、ゆっくりと振り向き、険しい顔のまま言った。
「神仏を探せ。お前の神仏を」
最初のコメントを投稿しよう!