不ぞろいな神様たち

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 その頭全体に黒いヴェールがかかり、全身にも黒いローブをまとって、見るからに怪しげな雰囲気だ。しかしそこは西の神、どんな見た目でもすぐにその正体を見破ってしまう。 「あれ、中東の神様でしょ?久しぶり。ずいぶん、ちっちゃくなってない?」  そう声をかけられた小柄な人物は、黒いヴェール越しに戸惑ったような小さな声を出す。 「お、おう、久しぶりだな、西の神よ……」 「ねえ、しかもなんでヴェールなんて被ってるの?君のとこじゃあそれって女性用でしょ?」 「う、うるさいな、ほっとけよ……」 「どっちにしろ、この辺じゃあそんな恰好浮きすぎだよ。それ、取りなよ」  西の神はやや乱暴にヴェールに手をかけ、取り払う。するとその下から、人間となった中東の神の素顔が現れる。  それは、世にも美しい少女の顔だった。浅黒い肌に、大きな黒い瞳。丸みを帯びた輪郭からは、あどけなさも漂っている。ヴェールを暴かれた神は、恥ずかしそうに下を向く。 「か、かわいい……」西の神は驚き、思わず顔を赤らながら口ごもる。 「いやいや、一体なんで、そんな美少女になって来ちゃうわけ?」 「ちょっと間違えたんだよ、ほら、約束の場所が日本だったろ、サブカルの国だし、だからちょっと幼女系とかのほうがウケるかなと思って」 「その理由全然わかんないよ、しかも別に誰かにウケる必要とかないから」  しかし、本当にかわいらしい、と西の神は唾をのむ。肌の色さえ除けば、さしずめ橋本環奈でもモデルにしたんだろう。 「いいじゃん最後くらい、俺だってこれまでと真逆になってみたかったんだよ」  女性に対する男性優位で売ってる文化圏だけど、逆にこの人、そういう願望もあったのね。と西の神は少し納得する。確かに最後だし、それなら僕も普段と全く違う感じで来ればよかった。  いやいや、美少女の見た目に惑わされてはいかん、と気を取り直し、西の神は早速本題に触れる。 「ところで、一緒に自殺する件だけど」 「ああ。自殺はやぶさかじゃないけど、あたしはお前にゃ騙されないからな」  もう、一人称が女の子になっている。中東の神様も、美少女キャラが結構まんざらでもないようだ。 「君が簡単に納得しないのは分かってるよ。せっかくだから少し人間界の様子も見たいし、今晩は旅館に泊まって、そこで話し合うことにしよう」  こうして2人は駅前のタクシーロータリーへと歩いて行った。  2人を迎えた旅館のフロントは、一瞬少し意外な顔をしたが、すぐにそれはプロフェッショナルな微笑みにかき消された。こんな若い男女連れが、北陸のこの年季の入った旅館を訪れるのは少し珍しいことだった。 「はい、料金は先払いで……もちろん、現金でもクレジットでも結構ですよ。ではこの用紙に、お名前等をご記入いただけますか」 「名前?」  2人は一瞬顔を見合わせる。そうか、人間としての名前もそれぞれ持ってなきゃいけない。フロントの高級そうなボールペンを握った西の神は、少し考えながら用紙に書き込む。僕が、西から来たキリストだから……西野桐人。でこの子は、アラブのムハンマドっぽい感じで、そうだな…安良部桃にしよう。 「ねえ、勝手に変な名前つけないでよ」小声で中東の神が文句をいう。  そんな彼女の声が聞こえているのかいないのか、桐人と名乗ることにした西の神は、適当な電話番号と住所も一緒に記入して、フロントを後にした。
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