Ⅴ 改革

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 そのためにはやはり、後に付け加えられた『聖釈』を排し、『聖典』のみを教えの根拠とするべきであろう。  私の直訴状の例に習い、聖職者でなくともより多くの者が『聖典』に触れられるよう、ガルマーナ語訳の『聖典』を出版するというのもいいかもしれない。  そして、本来の教えの根幹である、私がたどり着いたイェホシアの真の預言――「常に神を心に思いさえすれば、誰もが神の御言葉を預り、その御心に沿って義に生きることができる…」という真理を――私はこれを〝想神義認〟と呼ぶようにしたが、これを教理の一番の支柱としよう。  故に、新たな我らの教会には預言皇はもちろん、司教も司祭も必要ない。心に神を思う限り、信徒一人一人が預言者であり、司祭なのだ。  また、今はザックシェン公の威光で守られているものの、当然、預言皇庁と現教会は我らを全力で潰しにくるであろうから、理論武装ばかりでなく、現実的な武装も必要不可欠である。  それは、戦に勝つための兵力に限らず、森羅万象に宿りし悪魔を思いのままに操る、 強大な〝魔導書〟の力をももちろん含む。  かつて、イェホシアも古代ダーマ人の王ソロモン同様、天使ばかりか悪魔をも手足の如く使役していたと『聖典』には記されている……預言皇庁は「邪悪なる危険な書物」として禁書にしているが、魔導書の魔術は別にイェホシアの教えに反するものではないのだ。  表向きは禁書と謳い、現状では魔法修士の属する修道院が独占している魔導書を我らも入手せねばなるまい……。  ここに至り、私は本格的に預言皇体制と対決する覚悟を新たにすると、匿われているザックシェン公の城内の一室で机に向かい、正しきイェホシアの教えを広めるための著作の執筆に着手した。
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