Ⅳ 審問

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「そ、それは……し、しかし、代々の預言皇も贖罪符を認めてこられた。そ、そうじゃ! 『聖釈』にはちゃんとそのことも記されておろう?」 「そもそもその『聖釈』自体が誤りなのだ! 故に預言皇も、あなた達枢軸卿も、大司教ですらも、本来、イェホシアの説いた預言の教えにはない、間違った概念だ! 我ら聖職者はただ、神への道へ人々を導くためにあるだけの存在……神を心に想う時、誰しもが預言者となれるのです!」  枢軸卿もこれまで説かれてきた一般的な教会の教えに即して反論するが、私はそれを逆手にとると、さらに突っ込んで彼らの薄っぺらい教理を批判する。  『聖典』に触れ、イェホシアの真の預言に気づいた当初はその喜びに酔いしれていたため、さほどその矛盾や欺瞞を気にもしていなかったが、今さらながらに贖罪符をはじめとする、彼らが勝手に付け加えた偽りの教義にふつふつと怒りが湧いてきた。  愚かにも、かくいう私とて長年の間、預言皇とその取り巻き達の作り出した『聖釈』という偽典を、それが真にイェホシアの教えだと信じて疑わなかった……だが、彼らは卑劣にも、そうして千年以上に渡り、イェホシア・ガリールの説いた真の教えを自らの利のために歪めてきたのである! 「なっ!? お、畏れ多くも唯一、神の言葉を預かれる預言皇を否定するとは気でも触れたか!? 最早、異端審判をするまでもない。貴様はやはり異端者じゃ!」 「ならば問う! それではなぜ、『聖典』の中でイェホシアは預言皇について一言も触れてはいないのだ!? それどころか、すべての者が神の言葉を預かれると説いているのに、その教えを無視した預言皇という存在の方こそが、むしろ明らかなる異端的教理と呼べるのではないのか!?」 「う、うぐ……よ、預言皇を批判するとは、よほどの覚悟があるのだろうな? マルティアン司教、おって厳しい沙汰が下るだろう。心しておけ!」  結局、討論では私を打ち負かすことができず、真っ赤な顔をした枢軸卿はそんな捨て台詞を口に帰って行った。  預言皇を真正面から堂々と批判してみせたのだ。脅されるまでもなく、このままで済むわけがないことは私にもわかっている。  だが、私はそれでもよいと思っていた。まだ異教が跋扈する世界の中で正しき教えを説き、残酷な刑に処せられたイェホシアや(いにしえ)の教父達ーー即ち聖人の如く、神のために殉じるという、義に生きた生涯の終わりもけして悪くはないと。
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