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夢と現実
何もない真っ暗な世界で一人の少女がいた。
真白な肌に真っ白な髪。そしてその白い肌を隠すかのように巻かれた包帯に身に纏う入院着。
真っ暗な世界の中でポツンと残された真っ白な存在は、虚無の中に生み出された雪そのものと勘違いしてしまいそうなほど、綺麗で静かで美しいその体は人を魅了するかのように、虚ろに近い赤い瞳が何かを眺めるかのように見つめていた。
『神様、お願い。いるのなら、私をここからだして』
そう呟きながら、少女は包帯が巻かれた細い腕を天高くに舞う黒い箱にへと差し向けた。
その細く脆い腕は届かないと知っていながらも必死に差し伸べていた。必死に何かを懇願するかのように、
「…………変な夢」
目が覚めた私の一言はそれから始まった。
「何言っているのお姉ちゃん。そんなことより早くしないと学校に遅れちゃうよ!」
朝日が差し込む自身の部屋では、必死に地味なセーラー服を着ている妹を眺めながら、はっきりとしない思考をきちんとするために、私は私の体に纏わりついている布団という極大的な魔力を持っている怠惰の象徴から抜け出すと、私は真っ先に洗面台にへと向かう。
「それにしても、何の夢を見ていたっけ?」
洗面台に立ちぼさぼさに跳ね上がっている髪になっている私の顔が映る鏡を見ながらも、蛇口から冷たい水を出し始め、それを手で掬うと顔を洗い始める。
さてさて、一体、どのような夢を見たものか。好きなものをたくさん食べれる夢? それとも幸せな家族な夢だっただろうか? それとも純粋にあり得ないほどの力で何とも言い難い存在から逃げる夢だっただろうか?
それらを思いついていくが、どうも満足しない。見た夢を思い出せないということは、これほどむず痒いものだろうか。喉元までに出ているだが、どう頑張っても出てこない。
もどかしい。
胸の中でそんなことを思ってしまう。吐き出しきれるもののはずなのに、どうも、吐き出せない。そんな状況がさらにもどかしさを酷くしていく。
「ま、いっか」
これ以上、こんなことで考えるなんて時間の無駄だと判断した私はあっさりと先ほどまで考えていたことなんて忘れてしまう。
「おねえちゃん! ご飯できた!」
「食パンでしょ? どうせ」
必死な声で私に朝食ができたことを報告をしてくれる妹に対して、私はなんとも素っ気ない対応をすると、妹もその声が聞こえたのか「なんか言った!?」と怒号交じりの返事が返ってくる。
あぁ、朝早くからあんなに起こるとかストレス多そうだな、とそんなことを思いながら私は妹と同じセーラー服を身に纏うと、妹が待つ台所にへと向かう。
「やっぱ、食パンだけじゃん」
「何言っているの! 食パンには多くの栄養素がたくさんあるんだよ!」
「九割が炭水化物なのに?」
「あと一割はいろいろ、入っているから!」
何言っているんだろうか。わが妹は、
半ば呆れながらも皿の上に置かれている一枚の食パンを口にすると、私はバックを手に持ちながら家を出た。
「え、もう行くの! 少し、待ってよ!」
「や」
後ろで悲痛な声を上げる妹を背後に私はその足を止めることはなく、歩き続ける。
口に食パンを咥えながら、玄関の扉を開けるとバタバタと大きな音を立てながら妹は私の事を追いかけてくる。
「お姉ちゃん。早い!」
「うるさいなぁ、寝坊しそうならいちいちテーブルで食べなくてもいいじゃん」
「けど、行儀悪いよ!」
「あー、はいはい」
妹の説教交じりに私は適当に返事を返す。
そうしている間にも私は口に咥えている食パンを欠片を地面に食べさせるかのように雑に食べながら歩を進める。
「それにお父さんやお母さんがいないからきちんとしてよ。長女でしょ‼」
「あー、はいはい」
長女であるという証明と共に長女長年を苦しめる悲劇の言葉。
その言葉を聞いて、私のテンションが少しだけ下がる。
まったく、朝からいいことは何一つないのか、変な夢を見るし、寝坊寸前にはなる。挙句の果てには妹から長女長男の禁句の言葉を吐かれる。
深いため息を吐きながら、口に咥えた食パンを食べ続ける。
「それに行儀が悪い!」
「あっそ」
食パンをぼろぼろと、粉を吹かしながら落とす私に妹は耳障りながらも注意してくる。
けれども、これが日常。
私が静かに望んでいる世界。
だからこそ、神様がもし、言うのならこの世界のままでいいと願うじゃないか。
『ここから出して』
「?」
すると、声が聞こえる。
「どうしたの? お姉ちゃん?」
だが、妹には聞こえていないような表情をしていた。
けれど、先ほどの声はきちんとしたはっきりとした声だった。聞こえないはずは無い。
「本当にどうしたのよ。お姉ちゃん?」
「え、えっと……」
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