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プロローグ
最初のきっかけは、大親友が読んでいた文庫本だった。
翼を持って生まれた人間――いわば、天使の生き残り。彼が普通の人間たちに翼を見せないように過ごしていた、砂漠が広がるエジプトを舞台にしたファンタジー世界での話。
天使は極力他者に関わらないようにしていたが、とある王子と仲良くなった。初めての、心許せる友人だった。その、唯一仲良くなった独りぼっちの王子が事故で崖から落ちてしまい、彼は助けようとして大衆の前で翼を見せてしまうのだ。
その、大空で広がる羽の様子、風の流れが翼の動きで変わってしまう様、王子の視点、天使の視点、大衆の視点、全てを包み込む空気。
見たこともない光景が、今目の前で起こっているかのような錯覚に陥らせる文章に、物語に、私は息をするのも忘れて読んでしまった。
そして、あれ以上の衝撃は、今の今までなかった。
もう一度味わいたいのに、その後どの本を読んでも見つけられなかった。次第にどの本もつまらなく感じて、何も魅力を感じなくなって、だけど本は読みたくて、あの衝撃がもう一度欲しくて――
気づいたら私は、筆を持っていた。
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