第一章・―その仕事を始めた理由―

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「そういえば……。お前が刑事になるきっかけって、何だったんだ?」 「え? きっかけ?」  久し振りにランチをしようと誘われて、元同僚と休日を過ごしていた時に、何故か急にそう聞かれた。  元々俺、(しん)(たに)(れい)は、国産から輸入までの雑貨を扱う、とある大企業の一営業マンで、刑事とは程遠い仕事に従事していた。  まぁ持ち前の明るさと人懐こさで、営業成績は常にトップを維持していた訳だが、今はそんな事はどうでもよくて、取り敢えず、俺が刑事になったきっかけというやつを、元同僚は知りたいらしい。  ……それはそうだよな。一応は有名大学を卒業して、大企業に就職して営業成績もトップを誇っていたのに、ある日突然「俺、刑事になる」とか言って辞めて、マジで刑事になった同僚が友人にいるなんて、もうエキセントリックでしかないもんな。  ただ、残念な事にこの元同僚、俺の幼馴染みである、(ふじ)(まき)(あきら)を知らない友人なのである。  俺が転職するきっかけとなった理由を納得してもらうためには、まず明の事から説明しないとならない。  何故ならそこを飛ばすと、とてつもなく複雑怪奇且つ、何か意味不明で、下手をすれば「……疲れてるんだな?」とか言って同情されかねないから。  そうなると、目茶苦茶話が長くなる。  例え話を終えたところで、この元同僚が明という存在を理解し、きっかけとなった理由を納得してもらえるのかは、激しく疑問でもある。  ……どうするか。
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