第一章・―その仕事を始めた理由―

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「……いや。まぁ。色々あって」  考えた結果。めっちゃ端折るという答えに落ち着いた。  多分、この元同僚には理解出来ないだろうと判断したから。  俺の人生もあまり良いものとは言えないけど、幼馴染みである明の人生はもっと最悪だったからだ。  優秀だった刑事を父に持った明が五歳の時、以前捕まえた犯人の誰かが逆恨みしたのか単純に狙われたのか、とにかく見知らぬ殺人鬼に家族を目の前で殺されて、自分だけ生き残り。  更には引き取られた父方の祖母に高校まで育ててもらえたは良いけれど、何故か殺されかけて。  奇跡的に命を取り留めた明は、手術を担当した医者が里親になって父親と同じく、優秀な刑事になるまで育ててもらい。  過去のトラウマと、父親絡みの事件に関する生き残りっていうだけで、上層部からは腫れ物扱いされている上。  その明本人はそんな事何処吹く風で、自分の家族を目の前で殺したサイコパス殺人鬼を自らの手で逮捕しようと、今でも追っている最中だったり。  しかも過去の事件が原因で、今でもフラッシュバックを起こしてしまうような体質になってるのを、周囲には頑なに隠してる。  ……なんて、二時間サスペンスドラマも裸足で逃げるような半生を送ってるからめっちゃ心配で、思わず俺も刑事に転職した。  とか言っても、絶対信じないだろうしな。  しかも、しばらく離れてて、再会したのもちょっとした事件絡み、なんてなドラマ染みた話、一体誰が信じるって言うんだ?  そんな話。当事者じゃないと、俺だって普通に信じないぞ。  とにかく、ここは誤魔化すに限る。
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