第一章・―その仕事を始めた理由―

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 なんて馬鹿な話に花を咲かせていると、さっと横切りそうになった人影が立ち止まる。 「……お。見た事がある顔だと思えば、令か」 「え? あ、明じゃん」  見れば、ダークグレーのスーツ上下にホワイトのワイシャツ、そしてブラックのネクタイを締めた明がそこに立っていた。  短めにまとめた黒髪に、鋭い目付きが特徴的な、どちらかと言うと、美形の部類に入る顔をしている明が俺の前に座る元同僚に視線をやる。 「あぁ。前の職場にいた時の友人だよ。えっと、営業の時のな」 「初めまして」 「どうも」  元同僚が営業らしく、懐から名刺入れを取り出そうとするのを手で制しながら、明も挨拶する。 「明は仕事だよな?」 「まぁな。捜査の合間に少し食べようという話になってな」  見ると、隣では上司である高村警視が立っていて、俺と元同僚に笑顔を向けてきた。 「あ、高村警視。お疲れ様です」 「新谷君、今日非番だったっけ? 楽しそうだねぇ」 「え、彼は上司?」  元同僚でも刑事の階級はある程度知っているらしくて、警視と聞いた時点でそう小声で質問してくる。  俺がそれに頷くと、にっこり笑って立ち上がった。 「いつも新谷がお世話になっております」  ていうか、営業モードばりばりだな。まぁ俺の上司を無下にしちゃうのはいかんという、元同僚なりの配慮なのだろうが、初対面でしかも営業に関係なさそうな相手に対して、そんなにもめっちゃ笑顔なのが逆に恐い。 「あぁ。君は以前の職場の友人だね? 非番に合わせてちょっとした会食をすると聞いていたけど、ここでしていたのだねぇ」  相変わらず高村警視は人柄を即座には掴ませない、ゆるっとした態度と雰囲気で元同僚との会話を続ける。  明はこの時点で、最早何物にも興味をなくしたようだ。  暇そうにしながら、明後日の方などを向いている。
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