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第一幕、「剣豪を語り継ごう者也。」
注※この物語はフィクションであり、実在する人物・団体とは関係ありません。
パパン、パンッ、パンッ__。
時は1642年(寛永19)、天下は徳川家が家康から二代目の秀忠へと引き継がれ、江戸城下は栄えの途中。
行商人の八郎太は今朝漁師から卸した魚を天秤にひょいと抱え、得意先のつらねる隅田川沿いの両国橋を渡り意気揚々と商売に励んでおりました。
そこに橋桁より聞き慣れぬ丁々発止と見慣れぬ人垣、八郎太はふと足を止めたのでございます。
「おいおいあんた、一体そりゃあどこまで本当のことなんだい!?」
「そうだそうだ天下の豪傑は数知れど、二天一流の宮本武蔵の武道伝を語ろうなんざ誰にもできやしねぇだろう!」
まさかの商売敵がいるんじゃねぇか?と橋の上から聞き耳をたてていた八郎太でございますが、どうにも耳に入って来る台詞ときたら穏やかではございません。
それに所々、かの有名な剣豪「宮本武蔵」の名前が飛び交っているじゃあございませんか…。
“あの宮本武蔵の何を語ろうってんだぁ?こいつはちょっと首を突っ込まずにはいられねぇなぁ”思ったが吉日、一丁飛びこんでやろうかと。
八郎太は橋を渡りきり、そこから坂をザザァと滑り降りると、商売もんの活魚をなるべく涼しい影間にひょいと肩から降ろすと ごめんよごめんよ、ちょいとごめんなすって なんて小気味よく言いながら人垣かき分け座の中心へ。
__んんっ?
そこに座りこんでいるのは白髪混じりのいささか細身ながらも恰幅の良い無精髭をたくわえた老人と。
一方、腕を組んで鼻息荒げな地元民が二人、あとの人だかりは野次馬か何か…とにかくその真ん中で、ぷかり小さなキセルを吹かす老人を真っ昼間からみんなで囲んでいるときやがる。
八郎太はいざ馳せ参じてはみたものの、内心“おいおい、こいつは厄介ごとに首を突っ込もうとしてねぇか?”なんて周りの視線に何を言おうか迷いながら見渡してみれば老人の背もたれ、掲げられたぼろ切れ同然のそれは小さな登り旗。
その口上に思わず目を凝らす。
剣豪、宮本武蔵の武道伝を一から百まで語ってみせる者也__。
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