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俺達はエミリオの屋敷の一部屋に通され、エミリオに事情を説明していた。
「つまりだ。困窮しているイーラス地方の人達に仕事を作るため、街をあげての新たなブランドを立ち上げるんだ。新しい産業が無くては、街が死んでしまう」
そう俺が熱弁を振るうのを、エミリオは黙って聞いていた。
「王都の連中は飢饉で皆が苦しんでいるのを知っているのに、自分達の取り分が減らないように税を引き上げたって言うじゃないか。それは絶対にやってはいけない事だ。街が死ねば、お前達王都の貴族に入ってくる税が、結果として減る事になるんだぞ。本来は逆に減税して、経済を活発化させなければならないものを、あんた達王都の連中は何をやっている?目先の利益にばかり目を向けて、将来を見ないからそうなる。挙句の果てには自国の民衆からの収入が少ないからと言って隣国に攻め入ろうだなどと、愚の骨頂だ。勝てばまだ良いが、負ければ国が消滅しかねない、決定打だぞ?それで神頼みで勇者を召喚など、ここの役人達のレベルの低さを露呈しているようなものだ」
さっき殺されかけたにも関わらず、ついつい、そう小言を言ってしまうのは俺の悪い癖。これで何人従業員が辞めていったかもう覚えていない。しかしエミリオは視線を落として、こう呟いた。
「君の言葉は本当に、耳が痛いな」
・・やっぱり、こいつは思った通り、俺の話を理解する頭と良識を持っている。
「ユートは私達に、盗賊なんて辞めてちゃんと仕事をしろと言ってくれた。そしてこうやって、自分の資材を投げ打ってあたし達の為に動いてくれてるんだぞ?食べ物だって買ってくれたし、あたし達を追い立てるだけの役人連中とは全然違うんだから!」
エダは、相変わらずエミリオを睨めつけながら俺の為に援護射撃する。俺はばつの悪さを感じた。俺の資材、イコール、エミリオから貰った金貨だ。つまりエミリオのものなんだけど・・
「いや、エダ、あの金貨は・・」
俺がそう言いかけたのを知ってか知らずか、エミリオが被せるように口を開いた。
「そうか。殺気もなしにつけてくるとは何かと思えば、そういう事情か。仕事を一から創るとは・・。やっぱり君は、変わってるな」
そう言ったエミリオは、何故か笑顔だった。
「それで?僕に何をして欲しくてここに来たんだ?」
「実は、ファッションリーダー・・つまり、ここ王都の女性たちが憧れてるような、そう言う女性を紹介して欲しいんだ。商品のデザインについて、相談に乗って欲しくて」
エミリオは少し考えたあと、
「まぁ、やはり、1番はアデルハイド様だが・・」
と言ったが俺は間髪入れずに答えた。顔に一杯の嫌悪を浮かべて。
「あの女はダメ!」
エミリオは苦笑いを浮かべて言った。
「だろうな。じゃあ、やっぱりあの人かな・・」
「誰?」
「ロゼッタ嬢・・。要人御用達の、高級娼婦だよ」
俺はちょっと驚いた。
高級娼婦!?街の憧れが?
つまり、江戸時代における、花魁みたいな感じってコトか・・?
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