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 俺達はシオンに伴われ、イーラス侯ジオコルタ家の屋敷にやって来た。    イーラス地方は昔は鉱山労働者や旅人で賑わい、王都からもほど近い地域である為、ジオコルタ侯爵家は財政も潤う有力貴族であった。しかしベンの話す通り、通行税の引き上げや鉱山の閉鎖により人口も税収も減少、元々財政を後ろ盾に権勢をふるっていたジオコルタ侯爵家は急速に力を失い、現在では政治の要職に就くことも叶わず、王都へ支払う税金を納めるのも一苦労の、貧乏貴族に没落してしまった。  侯爵とは代々その領地を納める家柄で、位としては、伯爵よりも上位に位置する。伯爵とは、王族の側近で地方に派遣された、いわば地方役人のようなものらしい。しかし現在ではその立場は逆転してしまっている。王家の権威を借りて、役人達は重い税を取り立てたばかりか私腹を肥やし、各地方の侯爵家はどんどん力を削がれているのが現状のようだ。  しかしそれでも、侯爵家の館は立派だ。ここにお金が無ければ、他にはあり得まいというクリス氏の話は本当なんだろう。  しばらく待たされた後、イーラス侯、ロベルト・ジオコルタへのお目通りが叶った。おそらく、謁見用の部屋なのだろう。ホールの様な部屋の正面に、ひな壇があり、そこにやはり髭を蓄えた男性と、隣にはまだ少女と見られる若い女性が並んで座っていた。俺がこの世界に来た時に通された王宮の謁見の間に比べれば小さいが、豪華な装飾を施されたホールはよく手入れがされている。  ロベルトと見られる男性の隣に座るのは娘さんかな?流石に妻にしては歳が離れすぎている。2人とも赤い髪で、少女の方は肩までかかる長い髪を、いわゆるお嬢様しばりにして、リボンをあしらっている。普段着用のドレスだが、背筋を伸ばして座る姿はさすがお嬢様、堂々として気品を感じさせた。 「ロベルト様、それにアイリーン様、本日はお目通り叶いまして恐悦にございます。  今日はご紹介したい御仁がございまして・・」 シオンはそう、俺の事をロベルトに軽く説明した。そして事業の詳細を俺から説明する、と話を振ったのだが・・ 「なんと、街をあげての新たな産業とな。本当にそうなれば喜ばしい。ここはな、昔はそれはそれは鉱山労働者や旅人で栄えておって、活気で溢れておっての。我らジオコルタ家も栄華を極め、3代先の当主は宰相を務めていた事もある。この屋敷の使用人も今の倍はおって・・・」  と、過去のイーラスとジオコルタ家の繁栄ぶりを長々と語り始めた。  ・・この感覚、懐かしいな。これはバブル期を知っているオジ様達が、その当時の事を語るのと同じだな。あの頃は会社の交際費で無限に飲めた、タクチケも使い放題で、ゴルフ三昧の日々。地主にありがちなのは昔は買った土地が次の日には数百万高く売れるような日々で、この辺一帯は自分の土地だった。その頃には家にお手伝いさんがいて・・などと言う昔話。この話、正直出口が無くて、へぇ、凄い時代ですねぇとしか言う事無いし。もう何十年も前の話、自慢げに語られてもさ、そろそろ今を見ようよ、としか思えないんですが。しかもこの手の話、会う度してくるからタチが悪い。しかしこれも営業、仕方ないよな。  俺が内心辟易しながらも愛想笑いで傾聴している横で、エダは爪なんかイジリ始めちゃってる。シオンにおいては、寝てないか?あいつめ、最初に話を通した後は、あいつをイーラス侯爵担当にしてやるからな。よーし決めた、今決めた。    もうだいぶ話を聞いているが、全然出口が見えない・・そう思った頃、隣のアイリーン嬢が口を開いた。 「お父様、おしゃべりで盛り上がるのは結構ですが、そろそろユート様のお考えの事業について、お聞きしたいですわ」  助かった!神対応ありがとうございます!俺はこのチャンスを逃すまいと、すかさず資料を広げ、事業計画の説明に入った。 「これはミュートルという素材で作られたアクセサリーを王都の女性達に向けて発信しようという事業でして・・」  話の内容は、クリス氏に話したものとほぼ同じ。最初は少額を投資させ、当初販売分を売り切ったら、投資額を増やして貰い、本格的に大量生産するというもの。 「しかし、そう上手くいくものかなぁ」  そう顎に手をやり考えこんだロベルト氏に対し、再びアイリーン嬢の神対応が繰り出された。 「お父様、わたくし、やってみたいですわ」  この一言で、ロベルト氏の投資が決定したのである。    館を後にしようと玄関へ向かう俺達に、後ろから声がかかった。振り返ると、そこにはお付きの女中に付き添われた侯爵令嬢アイリーンの姿が。彼女は俺に対し驚きの提案をしてくるのである。 「ユート様。わたくしに、ユート様のお仕事を手伝わせて頂けないでしょうか」 「え・・でも、侯爵家の御令嬢に、そのような」  俺は戸惑っていた。このイーラス地方の領主って事は、多分とんでもないお嬢様だ。この世界に来たばかりの俺には正直、扱い方がよく分からない。。  困惑する俺に、隣の女中のオバさんが声をあげた。 「アイリーン様はこの侯爵家の1人娘なれば、幼き頃より後を継ぐ者としての御自覚に目覚めておいでです。このイーラスを盛り立てようと男児に劣らず、勉学に励んでこられました。誠にご聡明に御座いますれば、領民達の幸せの為、自ら身を粉にしてご尽力なされるとのご決断です。その有難いお言葉を無下にするなど、もってのほか」  つまり、断る選択肢無いってこと?このオバさんまでついてきたらヤダなー。まぁスポンサーに事業説明する義務は当然あるし、仕方がないか。 「ユート様、わたくしは、このイーラスの将来について憂いておりましたところ、ユート様のお話をお聞きして感銘を受けまして御座います。どうぞ、わたくしにもお側で学ばせて頂ければと思います。 ・・明日よりどうぞ、宜しくお願い致します」  そうニッコリ笑ったアイリーン、確かに自らプロジェクトに参加するとは、なかなか行動力に溢れる聡明さだ。 ・・それに、美人だ♡  そうして、俺達はジオコルタ家から投資と、アイリーンの協力を得た。館を後にした俺は早速、シオンに言った。 「お前、アイリーンお嬢様の対応宜しく。俺にはよくわからんし、頼むぞ」 「はい!お師匠様!」  だからその呼び方、なんか違うんだよなぁ。
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