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あいつと俺の最近の関係
その日、もう日付も変わろうかという夜中、俺は王都に借りたアパートに向けて足を進めていた。どこに行っていたかというと・・娼館です♡
勿論、ロゼッタの所のような高級な娼館ではなく、一般人も行ける庶民的なところ。俺のお気に入りはメリルちゃん。
俺が部屋の鍵を開けようとすると、既に鍵が開いている事に気づく。部屋のドアを開けると、我が物顔で俺のベッドに寝転ぶ、美貌の貴公子の姿があった。
そう・・エミリオだ。
エミリオの邸宅周辺は貴族の家が立ち並ぶ高級住宅地の一画。各家には門番が配置され、あの辺を庶民が彷徨くと目立つので、会うのは俺の家でという約束になっていた。面倒なので、俺は奴に部屋の合鍵を渡していたのだ。
最初は用件のある時だけだったのだが、なんだか自然と一緒にいる時間が増えていった。エミリオは頭が良く俺の話を理解できたし、歳も近い。弟子の様な雰囲気で歳もかなり下のエダ達にはし難い話も、エミリオ相手になら気軽に話せたし、俺にとってはこの世界で初めての友人と呼べる存在だった。
・・というか、俺は少年時代から借金返済に向け忙しくしていたから、実は友人との付き合いなど皆無に近かった。だからこの世界、というよりは人生初の友達、と言える。
エミリオはエミリオで、何故か大した用も無いのに現れては勝手に部屋で寛いでいるので、不思議に思った俺は奴に聞いてみたことがある。奴の答えはこうだった。
「なんとなく。君の家、気を使わないし」
つまり奴も、暇な時間をなんとなーく俺の家で過ごしている。友人同士で別々の漫画読んでるのになんか集まって読んでる、みたいな、俺達の間には不思議とそんな友情のような感情が芽生えていた。
エミリオは俺に気づくと、ベッドに預けていた身体を起こした。顔に呆れた色を浮かべて。
「また娼館通いか?本当に好きだな君は・・」
テヘッと肩をすくめる俺に、エミリオは白い目を向けた。
「君、もういい歳だろう?娼館に通ってばかりいないで、そろそろ身を固めようとは思わないのか?」
「いやー、そんな相手、いないしな」
「僕の目には、エダもアイリーンも、君のこと好きなように見えるけど・・」
「?エダはともかく、アイリーンは違うだろ。侯爵令嬢だぞ?それに俺は自慢じゃないが、女心はサッパリ分からん。あんな良い子達と交際でもしてみろ、絶対傷つけるぞ。そんなの可哀想じゃないか」
その俺の言葉に、エミリオは苦笑いを浮かべた。
「優しいんだか優しくないんだか・・」
「とにかく、いいの俺は。金の発生する関係の方が立場が明確で変な気を使わなくていいし。てゆうか、お前の方がどうなんだよ。この世界じゃ結婚するの、遅いくらいなんだろ?モテモテ過ぎて目移りするってか?それとも、噂どおりロゼッタさんの事?」
娼婦のメリルちゃんの話しでは、エミリオが結婚しないのはロゼッタさんと恋仲だからだと専らの噂なんだって。美貌の貴公子とトップ娼婦との、身分違いの悲恋物語。そんな噂が庶民にまで知れ渡っているのだから、こいつの人気は相当なものなんだろうな。
「んー・・まぁ、そんなとこ・・」
エミリオは俺と目も合わさずに、歯切れの悪い答えを返した。こいつがこういう態度の時は、聞かれたくない話と相場が決まっている。日本と異なりこの世界の貴族ってやつは、恐らく恋愛結婚など出来ないのだろう。家同士の力関係や関係性もあるだろうし、色々と事情があるのかもしれなかった。
俺はあえて追求せずに話題を変えた。
「そういえばエミリオ、俺は近々、王都を離れるぞ。しばらくこの国を出ようかと思ってる」
「そうなのか?今度は何?」
「王都の需要だけでは、売り上げのアッパーは決まっている。これ以上の成長は望めまい。だから新たな市場を開拓しに行くんだ。つまり、他国でミュートルを売るって事だ」
「・・・ふーん。どのくらい行くの?」
「さぁ、どうかな。1か月か、それ以上か・・」
「・・・そう」
エミリオは無表情で、それだけ言った。なんとなくだけど・・寂しがってるのかな?
俺はエミリオに肩組みして言った。
「しばらく会えなくなるし、今日は2人で酒でも飲むか!」
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