0人が本棚に入れています
本棚に追加
赤井春香の事情
小さいとき、夢を見ていた。優しい両親、大好きな姉、裕福とまではいかなくても不自由はない暮らし。当時の私には、それが当たり前だった。でも今思えばそれは、夢だったのだろう。こんなに儚く消えてしまうものなのだから。
__________________
朝、時計のアラームとともに目が覚める。いつもと変わりない朝。いつもの制服を着て、いつものように1階へ降りると、いつもと同じ朝食。いつも通り食卓には洋子さんと修二さんが座っている。
「おはよう春香ちゃん。早く朝ごはんを食べて学校に行きなさいね。」
そういって洋子さんはトーストとスクランブルエッグの乗った皿を私に差し出した。軽く挨拶をしてから私も空いている席に座る。聞こえてくるのはテレビの音と、修二さんがコーヒーを啜る音くらいである。いつまでたっても慣れることのないこの静かな時間に若干の居心地の悪さを感じながら朝食を済ませ、私は足早に鞄を持ち通学路につく。
学校とは私にとって、勉強をする場所。それ以上でもそれ以下でもなかった。私は成績は良かったが、学校は嫌いだった。周りの幼稚な人間に、歩幅を合わせることを大人たちから強要されることが苦痛だった。
最初のコメントを投稿しよう!