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俺は大学から実家を出て一人暮らしを始めました。
もともと料理も好きで、苦にしたことはなかったです。アルバイトもしていたからものすごーくお金に困っているわけでもなくて。ただ、学校行って、バイトしていると思った以上に時間がなくて、料理しようと思って買った材料の賞味期限を切らしてしまうこともありました。
その頃は、期限切れなんか食べたら、具合悪くなるって信じていたから、躊躇なく捨てていたんです。今思うと怖いくらい。
とにかく忙しい、忙しいが口癖で。年末年始に帰省してばあちゃんに会ったときも「忙しい、忙しい」って意識しないで言っていたんです。
そしたら、ばあちゃん、俺のこと気にしてくれたみたいで。
その頃ばあちゃんは「子どもの世話になる」ことに抵抗があったみたいで、公営住宅に一人で住んでいたんですけど、それがエレベーターもない古いマンションの四階でした。
買い物するのも一苦労だったと思うんです。よく年配のひとがカラカラ引いている小さいカートを持って、階段を下りて近くのスーパーに行って買い物して、カートに座って一休み。
マンションまで歩いて、四階分の階段を休み休み上りながら、ようやく部屋に帰りつくような生活を送っていたと思います。それなのに。
忙しい孫の為に、ときどき段ボールいっぱいに食糧を送ってくれたんですよ。
段ボールいっぱい。
そこに詰める食糧、買い集めるの大変だったと思うんです。足腰弱った八十歳のばあちゃんが、四階分の階段下りて、歩いて、上ってだから。毎日少しずつ買い集めて、いっぱいに溜めてから送ってくれて……。
だから、俺のところにつくときは、半分くらい賞味期限が切れちゃっていたんです。
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