死神様にお願い。

5/5
前へ
/5ページ
次へ
男はそれから、勇気をもって自らの宗教観を語ったことに心底安堵した。 もし、語っておらず、担当者が提案した現在人気の、「ウェディングプラン」などを選んだのなら、それこそ罪の意識と恥で、二度と地獄から出ることはできなかっただろう。 棺にタキシードを着て、来世では素敵な人と巡り合えますようにと、隣にドレスをきた美しい人形を添えるなど、ありえない! 男はこれで自分を許してやれる。 男はようやく、自分にも平等な死の権利を得られたことが幸福だった。 死に向かっているのに、わくわくするほどだ。 男は心の中で、担当者に詫びた。 最初は、若いけど大丈夫か? しかも、女性じゃないか。 と、カフェで彼女に対面した時、不安でしかなかったのだ。 けれど、今は感謝しかない。 緩やかなウェーブの髪に、白いニットの服。手足は長く、肌は透き通るように白い。今まで男が出会ったことのない人種。港区風女子。 自分を救ってくれる「死神様」 「どうか、よろしくお願いします!!」 と頭を下げたことが蘇る。 そして、今。 死神の腕の中で、息絶えようとしている男がいる。 その目に光はなく、あるのは絶望の暗い影。 男は最後の力を振り絞り、口の端から、血の泡を噴きながら、息も絶え絶え女に聞いた。 「あの、僕と会うのは何回目ですか?」 女は優しく答える。 「あーあ。思い出しちゃった」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加