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男はそれから、勇気をもって自らの宗教観を語ったことに心底安堵した。
もし、語っておらず、担当者が提案した現在人気の、「ウェディングプラン」などを選んだのなら、それこそ罪の意識と恥で、二度と地獄から出ることはできなかっただろう。
棺にタキシードを着て、来世では素敵な人と巡り合えますようにと、隣にドレスをきた美しい人形を添えるなど、ありえない!
男はこれで自分を許してやれる。
男はようやく、自分にも平等な死の権利を得られたことが幸福だった。
死に向かっているのに、わくわくするほどだ。
男は心の中で、担当者に詫びた。
最初は、若いけど大丈夫か?
しかも、女性じゃないか。
と、カフェで彼女に対面した時、不安でしかなかったのだ。
けれど、今は感謝しかない。
緩やかなウェーブの髪に、白いニットの服。手足は長く、肌は透き通るように白い。今まで男が出会ったことのない人種。港区風女子。
自分を救ってくれる「死神様」
「どうか、よろしくお願いします!!」
と頭を下げたことが蘇る。
そして、今。
死神の腕の中で、息絶えようとしている男がいる。
その目に光はなく、あるのは絶望の暗い影。
男は最後の力を振り絞り、口の端から、血の泡を噴きながら、息も絶え絶え女に聞いた。
「あの、僕と会うのは何回目ですか?」
女は優しく答える。
「あーあ。思い出しちゃった」
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