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死は平等である。
なら、死に方を選ぶ権利も平等である。
男は、さっき出会ったばかりの担当者の腕の中で息耐えようとしていた。
緩やかなウェーブの髪に、白いニットの服。手足は長く、肌は透き通るように白い。
今まで男が出会ったことのない人種。港区風女子。
大きな瞳が恐怖と哀れみで潤んでいなければ、いつまでも眺めていられる顔。
「あの、今、救急車を」
彼女はそう言ったが、男の背には無数の刺し傷があり、足元には巨大な血だまりを作っていた。火を見るより明らか。
男はもう死ぬ。
肥満体型なのだから、少しは脂肪がカバーしてくれるかと思ったが、そんなことはちっともなかった。
手が震えるのは寒いからだけじゃない。押し寄せる死が体を蝕んでいくのを感じるからだ。
死にたくない…
声になったのか、ならなかったかわからない。
薄れゆく意識の中で、男は神に祈ることしかできなかった。
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