死神様にお願い。

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「では、忘れてしまいましょう!」 男が刺される前。葬儀屋の彼女と契約を結ぶ前、彼女は手を打ってそう提案した。 「自ら罪と思う行動をしたことを忘れてしまえばいいんですよ!」 彼女はまるで、最高のウェディングプランを思いついたかのような面持ちで、ニコニコと笑っている。 男は彼女の提案に戸惑いながらも、「なるほど」と、納得もしていた。 「でも、どうやって?」 「催眠術です」 男は眉をしかめた。 「おっしゃりたいことはわかります。 けれど、当社はありとあらゆる人材を取り揃え、様々な方法を駆使してお客様のお望みを叶えてまいりました。 それが当社の売りですし、そこをご存じだからわが社をお選びになったのでしょう?」 担当者の言葉に、男は素直に頷く。 彼女が勤める会社は、ネットでも評判だし、最近は遂タブーとされてきた番組の特集まで組まれたのだ。 それは、彼女の会社がどれだけの業績を上げてきたのかを物語っている。 「そんなことが可能なのですか?」 男は恐る恐る尋ねた。 「お任せください。  催眠術による記憶の改ざんは実証済です。少し前になりますが、死ぬときぐらい穏やかに死にたいと、旦那さんのことを忘れてお亡くなりになった方がいらっしゃいましたから。 それにお客様のなくしたい記憶は、私と会っている間のごく一部ですから。 それほど難しいことではないでしょう。 一応、簡単な体験を受けることも可能ですよ。 もし、それでご満足頂けなければ新しいプランをご提案しますし、当社との契約を破棄してくださっても結構です。手数料はかかりますが、解約返戻金がございますので。 どうしましょうか?お客様は催眠術を、受けられたいですか?それとも、受けられたくないですか?」 女性の顔は自信に満ち満ちていた。 さすがは、葬儀屋のトップセールスレディー。 過去の事例を持ち出し、具体的提案をし、聞き手を安心させるように、プラスの言いかたで終える。そして、最後の答えは二択に絞る。 男は感心しながらも、その選択に乗ってしまった。 「できれば、受けたいです」 「では、日程を調整いたしますね。いつごろがよろしいですか?」 突拍子もない提案にうまく丸め込まれた感じはしたが、男はこの提案の前に、自分の宗教観を打ち明けてよかったと心底思った。
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