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俺はどうやら気を失っていたようだった。
強烈な寒気のようなものを感じて、目が覚めた。
状況把握するのに、しばし時間を要した。
車の中にいる。
それだけは辛うじて認識できたが、まともな状況ではなかった。
目の前には砕け散ってもはや窓の役割を果たしていないフロントガラス。そしてそれを突き破って車内に突っ込んできている、何やら大きな鉄板のようなもの。俺の体は運転席のシートに縫い付けられたように押し付けられ、動かそうにも動けない。
そうだ、俺は事故に――
そこにきてようやく自分が高速道路で事故に巻き込まれたのだと思い出す。フロントガラスを突き破った鉄板は、俺の前を走っていたトラックの荷台に積まれたものだったのだろう。
それにしても寒い。それにうるさい。緊急車両のサイレンの音や誰かの怒鳴り声やざわめきが耳に障る。少し黙っててもらえないだろうか。12月の寒風にさらされて寒いはずなのに、こっちはとにかく眠いのだ。邪魔をしないでほしい。
「大丈夫ですか。聞こえますか」
唐突に運転席の横から声をかけられた。フロントガラスの方に気を取られていたけれど、どうやら運転席のガラスも割れていたようだ。
眠気をこらえて声の方を見ると、消防隊員らしい男がそこにいた。
「すぐに助けますからね。そのままで……」
消防隊員はそこまで言って、ハッとしたように口を噤んだ。
俺は眉をひそめた。消防隊員の顔色が悪くなったように見えたのだ。
「あの……」
「じっとして、動かないで下さい」
「え……」
消防隊員は硬い表情で前方に顔を向けると、「それ今動かすな!」と大声で指示をした。
一体何だというのか。何が起こっているというのか。
俺は言いようのない不安と恐怖にかられながら、今辛うじて動かすことのできる首をわずかに動かして、足元に目をやった。
といっても目に入るのは大型の鉄板だけ。その下にあるであろう俺の足は、鉄板に遮られてどうなっているのかわからない。
というかこの鉄板、どうなってるんだ? フロントガラスを突き破って、そして、そして……?
「じっとして。動かないで」
消防隊員の、少し上擦ったような声が、もう一度言った。
しかし言われるまでもなく、俺は動くことができなかった。
いったい何に使うのだろうかという大きな鉄板。それが今、俺のへその下あたりにめり込んで、そのまま俺の上半身と下半身とを真っ二つに切断してしまっているのだ。
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