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また翌日の帰り道。
キースは神から話しかけられたら答えるつもりでいたが、今回は神は話しかけてこない。
居心地の悪い空気を纏って、静かに寝所にたどり着く。
「お疲れ様でした」と頭を下げて引き返そうとした時、キースの腕は神に掴まれた。
「少しだけ話しませんか?」
キースは驚いてハイトとウィリアムを見たが、2人は何事もなかった様子で引き返し始めている。
キースは困惑したが、表情の見えない神様のいたずら気に漏らした笑い声に魔法が使われたのだと察した。
神の手に引かれるまま、キースは寝所内へと入る。
その中はベッドと椅子と洋服を掛けるラックしかない。
神が全身を覆っていたローブや帽子を外してラックに掛ける様子を眺めながら、キースは尋ねた。
「なぜ、先輩達に魔法を?」
キース自身は魔法を使わないが、魔法を見た事は何回もある。そのどれもが発動の為に大きな動作が必要で、発動前に警戒できるものであった。
しかし、今回は魔法の発動に全く気づかなかった。
これも神がなせる技なのかと感心する。
「お2人は、貴方の事を快く思っていませんでしたので」
神の断定的な言葉にキースは眉をひそめた。神と話ができるのは、寝所と謁見室の間だけだ。
2人が神に直接話したとは思えないが、この街の人間がやる事は、キースも把握できている。
「2人は神様に祈ったのですか?」
「はい。貴方が守り人から外れる事を祈っていました」
キースは思わず笑ってしまう。
自分自身は辞退したいと直接上の人間に言っても聞き入れてもらえなかった。それを彼らは祈りで叶えようとしている。
「神様が【祝福】を与えれば、俺は辞められますか?」
「……辞めたいのですか?」
神は仮面を外してキースを見た。
そこには悲しげな少女の姿があった。
「いえ、続けたいと思ってますよ」
社交辞令を言えば、神はほっと息をつき、無邪気な笑顔を見せて言った。
「この国の、この街の外の事を教えてくれませんか?」
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